政府は無計画な政策の無駄打ちをやめよ


 生活の手段を失った人々が精神的な安定を取り戻しつつ、次の生活に向かうためには、おそらく、その人たちの半年~1年分の収入に相当する資金が必要となるはずである。金額にすれば、500万~1000万円単位ということになるだろう。それを行えるのは、上場企業の東電ではなく、国でしかありえない。ところが、今のところ、政府にはそうした動きの気配すらない。

そうした中で、計画的避難地域の指定を受けた福島県飯舘村で酪農業を営んでいる長谷川健一さんは次のように話す。

「毎日搾乳しているが、放射線問題を受けて牛乳は売れない。生乳は捨てている。収入が何もなくなったため、この40日間、蓄えを取り崩して牛たちに餌を与えているが、もう限界だ。餌が昨年の干し草だけとなって、牛はやせ衰えてきた」

長谷川さんの牛舎には、30頭ほどの乳牛がいるが、確かに、牛たちはやせて背骨が浮き上がっていた。それでも、長谷川さんは事業の継続を考え続けてきたが、5月の連休前の時点で「苦渋の決断」を下した。牛を売却し、数十年の労苦の末に、現在の規模にまで築き上げた酪農業を断念するという決断である。

もし、十分な仮払金がより早期に支払われていれば、長谷川さんをこれほどまでに追い詰めることはなかったに違いない。

あるいは、まだ、間に合うかもしれない。政府は直ちに効果のある行動に移るべきである。

ところで、この飯舘村を最近、政府与党の幹部たちが訪れている。政府が計画的避難地域の指定を行った数日前にも、枝野幸男内閣官房長官が訪れた。枝野長官は「責任を持って全力で支援する」と言って村を後にしたが、同地域指定の直後、菅野典雄同村長らを首相官邸に呼び出した福山哲郎官房副長官が提示したのは、飯舘村が要望した「福島県内での避難」とはかけ離れた“支援策”だった。県外避難である。

結局、飯舘村は自力による避難施設確保を迫られた。しかし、周辺の自治体の住民がすでに福島県内に避難している状況下で、である。避難施設、住居の確保に難渋したことは言うまでもない。どうにかホテルなどの宿泊施設は確保したものの、これはあくまで避難期間の中での、さらに仮の住まいにすぎない。村民は再び移転を迫られる。その精神的な苦痛は想像するに忍びない。

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