「ステアリングを左右に大きく動かしている時に問いかけを行ってどんな反応があるか、頭を動かした目視による安全確認をする際、確認には関係のない行動がないかなど、人それぞれが抱える症状に特化した検査が行えるのでありがたい」と、ドライビングシミュレーターを導入した病院の理学療法士/作業療法士からも賛同の声が聞かれるという。
高次脳機能障がいを有した人が自動車の運転を再開するためには課題がふたつある。①運転能力が保たれているか、②いかにして運転免許証の取得や更新を行うのか。
①については今回のドライビングシミュレーターや連携する医療機関が大きな役割を果たし、②については警察庁や公安委員会が決定する内容だ。①の観点は「人」、②の観点は「事務手続き」という別次元の話だが、再開を願う人からすれば運転適性の見極めと、免許証の取得や更新にかかる手続きは同次元であり、連動して解決する必要がある。
筆者の実体験と取材で感じたホンダの想い
筆者の話で恐縮だが、晩年、実父が高次脳機能障がいを患い、同時に右手と右足の一部が不自由になった。若い頃から乗り物が大好きで、ホンダ「S600 クーペ」をはじめ大型バイクにも乗っていたことから、リハビリ生活を続けながら、運転免許証だけは可能な限り更新したいという意志を抱いていた。
残念ながら当時はHonda運転復帰プログラムの開始前であり、他の手段を講じても運転再開にはたどりつけなかったが、リハビリ効果によって亡くなる前に1度だけ、運転免許証の更新が行えた。ただ、更新の後も自身の判断から亡くなるまでステアリングを握ることはなかったが、更新ができた達成感からQOLが高められるなど満足度は大きかったようだ。
ホンダの創業者である本田宗一郎氏は、「人の命を預かるクルマを造っている会社だ。お客さまの安全を守る活動は一生懸命やるのが当たり前」との想いを残している。ホンダがHonda運転復帰プログラムを行うことの意義は、まさにこの言葉が示している。現在、こうした各種プログラムとドライビングシミュレーターを連動させて自社開発し、事業化している自動車メーカーは世界でホンダのみとのこと。
実車の開発で培われる事柄がそのままドライビングシミュレーターに活かされることはない。けれど、運転再開を願う人の心にホンダの技術は静かに寄り添い続ける。
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