大変革期をどう「大玉」新規事業機会にしていくか トップのマインドセットとリーダーシップが鍵

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今はこのような会話は、テキストベースだが、近い将来、音声で会話できるようになると想定される。そうなると、デジタルデバイドリスクがあったシニア層をネットの世界に誘い、顧客とすることもできるだろう。さらに、スーパーパーソナライズの領域になると、買い物代行の領域を超えたライフサービスの提供にも浸透していける可能性がある。そのレベルになると、ユーザーにとっては話し相手のような存在、ライフコンシェルジュのような存在になるかもしれない。ここまで地平が広がるなら、地殻変動要因によるチャンスをとらえた大玉新規事業と言えるだろう。

大玉事業に向けてのトリガーアクション

以上見てきたように、ABCファクターが引き起こすような地殻変動状況においては、企業経営の観点からは、まずは「守り」に注意が行ってしまう傾向があるが、本来は、絶好の「攻め」の機会、大玉新規事業を探求する機会が到来しつつあると捉えたい局面だ。そのような理想的な方向に進むためにはいくつか要件があるが、ここでは、一般的な新規事業成功の要諦でもある、2つのポイントを挙げておきたい。

・マネジメント主導で切り拓く

一つは、トップ、マネジメント層が、地殻変動状況=「攻め」の絶好の機会と捉え、率先垂範、リーダーシップを発揮することである。そのためには、自ら体験したり、自ら外の状況を見に行ったりすることが出発点となる。

マネジメント層の認識レベルが十分ではなさそうな場合は、スタッフ部門から刺激を与えることも大切だ。必ずしもマネジメント層が早期からアンテナを立てられない場合もあるので、マネジメントの感度を上げる手助けをすることもスタッフの重要な職務であるからだ。いずれにしろ、「これはチャンスだ」と腹に落としてもらうことが大事だ。また、マネジメントも、スタッフ、特に若手の声に耳を傾けることも重要だ。そして、腹落ちしたら、「これは大きな機会だ」と、マネジメントが言って回ることが大切だ。

その延長線上で、マネジメント直轄の初期検討チームを組成して、ポテンシャルを徹底的に見極めるべきだ。関連部門に検討を任せたり、部門からの提案を取りまとめたりする程度にとどめてしまうことがあるが、自らの直轄チームで短期間に見極めるというような迫力が必要だ。地殻変動環境への対応は、スケールを伴う長期の仕事である一方で、既存事業部門は今のビジネスに手一杯で、スケールの大きい案件に力を注ぐのは難しい。となると、やはりマネジメントが本気度を示して、リードしていかないと組織は動きにくい。

・推進チームは既存部門から分ける

もう一つは、既存事業部門に任せるのではなく、トップ直下の独立した推進チームを設置し、検討、推進させるべきだ。迅速な初期検討を経て、大玉事業がありそうだと認識したら、大きなスケールで構想していく必要がある。前述したように、既存事業部門は、基本は今のミッション遂行が第一なので、追加的に、きわめて大きな検討に時間やエネルギーを割くのは困難なためだ。

これらのポイントは、一般の新規事業成功のための要諦でもあるが、地殻変動系の大イベントにおいては特に重要かつ、出発点になるので、強調しておきたい。

内田 有希昌 ボストン コンサルティング グループ 日本共同代表

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うちだ ゆきまさ

株式会社三和銀行(現 三菱UFJフィナンシャル・グループ)を経て1998年にBCGに入社。金融、通信、ハイテク、消費財、運輸などの業界の企業に対して全社戦略、事業戦略、新規事業構築、事業再生、アライアンスなどに関わる支援を行っている。

カーネギーメロン大学経営学修士(MBA)。東京大学文学部卒業。

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