海外記者が見た「日本のジャニーズ報道の異常さ」 「弱きを挫き、強きを助ける」歪みまくった構造

拡大
縮小

一方、今回再発防止特別チームの報告書がヒアリングをしたのは23人だけだった。そもそも、ジャニーズ事務所が調査員を人選しているような組織をどれだけ信用できるのだろうか。同組織は藤島ジュリー社長にジャニーズの代表を辞任するよう勧告したが、100%株主である同氏がこのまま辞任したとて、同じような権力構造は残るだろう。

日本のメディアはイギリスのメディアのように責任を取らない。テレビ局はChatGPTを使って声明を書いているのだろうか? 報告書が出された翌日、各局は同時に同じような薄い水割りのような空文を発表した。

よく「日本のBBC 」と表現されるNHKはこう書いている。「『人権、人格を尊重する放送を行うこと』を定めており、性暴力について、『決して許されるものではない』という毅然とした態度でこれまで臨んできたところであり、今後もその姿勢にいささかの変更もありません」。

では、5冊の著書、国会傍聴、そして文春の度重なる報道にもかかわらず、なぜジャニー喜多川の破滅的な性犯罪をもっと取り上げないのだろうか?

一方、テレビ朝日はこう書いている。「テレビ朝日グループでは従前より、人権尊重を明確に掲げて事業活動を行っておりますが、調査報告書に盛り込まれたマスメディアに対する指摘を重く受け止め、今後ともかかる取り組みを真撃に続けてまいります」。

現在、テレビ朝日では毎週土曜日午後4時から、子を持つ親なら誰もが戦慄する『裸の少年』というタイトルの番組を放映している。テレビ局はすっかり鈍感になってしまったのだろうか? 子どもたちが目の前で性的虐待をされないと行動を起こさないのだろうか? この国には親はいないのか?

23年前から何1つ変わっていない

「私を含むマスメディアが、特に最初に本が出た時、被害者の訴えについてかなり前からきちんと調査をしていれば、他の少年が性的被害に遭うことを避けられたかもしれない」と、2000年にニューヨーク・タイムズ紙にコメントしている前述の芸能記者は語っている。今から23年の前ことである。

今に至っても薄っぺらな反応しか示さないことで、日本のテレビ局はジャニー喜多川のような人物を守る沈黙の陰謀に加担しているのだ。ここでメディアが変われない限り、日本の芸能界が、彼のような怪物にとって理想的な遊び場であり続けることは間違いない。

(敬称略)

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT