大成建設、「世田谷区役所」工事が2年遅延の波紋 株価も急落、建築工事で「負の連鎖」が発生か?
組織の硬直性をさらに促したのが、現在、大成建設の名誉顧問を務める山内隆司氏との見方もある。
2007年から大成建設の社長、2015年から会長を務めた山内氏は、同社の経営が低迷していた時期に選別受注を徹底し、業績を立て直した立役者だ。業界団体の日本建設業連合会の会長や、日本経済団体連合会(経団連)の副会長も歴任した実力者である。
「デスノート」で社内が硬直状態に
山内氏は現場主義を徹底的に貫いた。その熾烈さに、音を上げる幹部も少なくなかったようだ。
「コスト管理にすごくシビア。社長や会長時代に全国の各支店をまわり(あるいはオンラインで面談)、幹部にヒアリングして、それを具体的な施策やエンゲージメント(約束)として、ノートにびっしりと書いていた。そのノートに書き込まれたことは、絶対に遂行しないとやばい。『デスノート』と恐れられていた」(大成建設の中堅社員)
この中堅社員は、「山内氏のこういった厳しい姿勢が、(社内硬直の)弊害を起こした側面もある」と認める。別の業界関係者も、「山内氏の社長・会長時代に、組織の硬直性が増して、社内の風通しが悪くなったのではないか」と話す。
組織が硬直し、社内の風通しが悪くなると、工事進捗などの情報の共有化が遅れ、ひいては問題が起きたときの対応が遅くなる。実際、世田谷区役所の工事については1期工事の遅れを今年5月に公表していながら、2期・3期工事の遅れはその2カ月後の発表だった。進捗遅れの背景に、縦割り組織の弊害が起きていないか検証が必要であろう。
大成建設は今後、適正な事業量の確保と生産体制の立て直しを急ぐ。
大成建設に限らず、ゼネコン業界は先行きを楽観視できる状況にない。建設経済研究所によると、2023年度の国内建設投資は71.7兆円(前年度比2.5%増)と、高い水準で推移している。
一方、2021年や2022年ごろの受注競争が激化した時期に獲得した採算の低い案件が、今期から来期にかけて、本格的に工事が進む。資材価格は受注時よりも跳ね上がっていることから、結果的に不採算の工事を抱えているゼネコンは決して少なくない。
準大手ゼネコンのベテラン社員は、「大成建設の赤字決算は、(業界全体が再下降する)始まりにすぎない」と見通す。大型工事の損失リスクが表面化してくるのは、これからかもしれない。
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