キーエンス、高収益企業が決算期変えるワケ 優良納税者だが節税もしっかり

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今2015年度の業績見通しについては、キーエンスは会社計画を発表していない。同社は今年度についても、1年を3カ月決算と9カ月決算に分ける変則決算にすると発表しており、「1年ベースでの伸び率でみると、売上高、純利益とも過去最高になる」と山本社長は説明する。

2012年度に変則決算を実施したばかりなのに、なぜまた決算期を変更するのか。キーエンスは1987年の株式上場以来、99年度、2004年度、12年度、15年度と4回も決算期を変更した。いずれも1年を3カ月と9カ月に分ける変則決算で、翌年度からは通常決算に戻っている。

利益のためなら決算期も変える

実は4回の決算期変更はすべて、税制改正による法人税の「減税」がらみ。2015年度の場合、4月1日以降に始まる事業年度から法人税率引き下げが適用されるが、3月20日が決算期末のキーエンスは、従来の事業年度のままだと2015年度(3月21日~16年3月20日)はまだ減税メリットが出ないことになる。そうした減税適用の遅れを少なくするため、今期はいったん3カ月決算(3月21日~6月20日)で締め、続く6月21日からの9カ月決算(6月21日~16年3月20日)で減税を享受しようというのが、変則決算の理由だ。

もっとも、3000億円規模の売上高にもかかわらず、キーエンスほど税金を払っている上場企業は決して多くない。利益が多いからだ。2014年度の調整後法人税額(法人税・住民税・事業税の合計に法人税等調整額を加減した会計上の納税額)は652億円だ。これに対して、同じ14年度におけるFA関連大手の調整後法人税額をみると、ファナックはさすがに1030億円(売上高7297億円)と目立つものの、三菱電機749億円(同4兆3230億円)、オムロン288億円(同8472億円)、安川電機96億円(同4001億円)などは売上規模を考えると、キーエンスに比べて税額が大きいとはいえない。

営業利益率5割超に達してもなお、税務メリットを追求するために臆面もなく決算期の変更までやってのける――。こうしたところにも、高収益企業の利益に対する飽くなき貪欲さをうかがい知ることができる。

大滝 俊一 東洋経済 記者

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おおたき しゅんいち / Shunichi Otaki

ここ数年はレジャー、スポーツ、紙パルプ、食品、新興市場銘柄などを担当。長野県長野高校、慶応大学法学部卒業。1987年東洋経済新報社入社。リーマンショック時に『株価四季報』編集長、東日本大震災時に『週刊東洋経済』編集長を務め、新「東洋経済オンライン」発足時は企業記事の編集・配信に従事。2017年4月に総務局へ異動し、四半世紀ぶりに記者・編集者としての仕事から解放された

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