「水曜どうでしょう」地方発"異例ヒット"の事情 チームの一体感が生む「大人の青春」の魅力

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『どうでしょう』では、演者とスタッフのあいだの線引きがない。ロケへの同行スタッフは藤村忠寿と嬉野雅道の2人。「藤やん」あるいは「ヒゲ」こと藤村がチーフディレクターで、「うれしー」こと嬉野が撮影担当ディレクター。

彼らもミスターや大泉に負けない存在感がある。藤村の指示が収録中でも構わず飛んでくるのは普通のことだし、嬉野は演者よりも気に入った景色を延々と映して大泉らにクレームを受けることもある。

また藤村は、裏方のはずなのに、面白いときはもちろん、どんなときでもなにかあると大声で高笑いする。「笑い袋」とも称されるその笑い声はとても特徴的で、一度聞けば忘れられない。大泉洋は藤村の笑い声こそが番組の人気の理由ではないかとエッセイのなかで真面目に分析しているくらいだ(大泉洋『大泉エッセイ』、327-328頁)。

地上波放送に先駆けて開催した前代未聞のライブ・ビューイング“最新作先行上映会”の様子。軍団4人も5万人の藩士と一緒に鑑賞。鈴井と大泉はこれが初見だった(写真:ⒸHTB/プレスリリースより)

藤村自ら出演することも珍しくない。無類の甘いもの好きを自称する藤村は、番組中ミスターと甘いもの早食い対決をし、そのすさまじさから「魔神」と呼ばれるようになった。この甘いもの早食い対決は定番化し、「対決列島~甘いもの国盗り物語~」という甘いものを食べながら日本列島を縦断する番組史上最長の企画にまで発展した。

ディレクターが目立つバラエティはほかにもなくはないが、これほどスタッフが自分の好きなことを好きなようにやっている番組はあまり思い当たらない。

それはミスターと大泉についても同じで、この番組ではそれぞれが自由だ。馬鹿馬鹿しさの極みのような企画もあり、時には疲れ果て口喧嘩も起こるが、だからこそ伝わってくる損得抜きの仲の良さ、いわば“大人の青春”がそこにはある。それこそが、この番組の最大の魅力だろう。

『どうでしょう』はいまもテレビバラエティのど真ん中

『どうでしょう』が始まった1996年は、バラエティ番組の歴史にとって記念すべき年である。記憶に残る名番組がまるで示し合わせたかのように揃って始まったからである。

パッと思いつくだけでも、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』(ともに日本テレビ系)『SMAP×SMAP』『めちゃ×2イケてるッ!』(ともにフジテレビ系)など。そのなかに『どうでしょう』もあったわけである。

それぞれ違う魅力を持つ番組ではあるが、ひとつ共通点をあげるとすれば、ドキュメンタリータッチを特徴としているということだろう。

その数年前に『進め!電波少年』(日本テレビ系、1992年放送開始)が始まり、ドキュメントバラエティと呼ばれる新しいバラエティのトレンドが生まれていた。笑いのなかにもドキュメンタリー性を重視し、リアルな感動を求めるその流れはいまもバラエティ番組の中心にある。

なかでも『どうでしょう』は、意外性と手作り感を重視した企画において最も濃くそのエッセンスを受け継いでいるといえるだろう。『どうでしょう』が愛され続けるのは、実はいまもテレビバラエティのど真ん中にいるからに違いない。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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