田中直毅・国際公共政策研究センター理事長--戦後体制は有事を想定せず、政府は危機対応力を欠く

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 しかし、菅直人首相は残念ながらその他大勢に入る。驚いたのは、震災後、内閣府に、がれき撤去、仮設住宅、被災者就労支援などとそれぞれに検討・推進会議が山ほどでき、それぞれに座長がついたことだ。危機に当たっては、指揮命令系統をなるべく単純化するというのが鉄則。菅さんはまったく逆。もともと国土交通省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省と所管官庁があって、政務三役がそれぞれにいる。そこへまた新たな組織を作るとは信じがたい。だが、閣僚の中から異論が出ないのだから、菅さんだけの問題ではない。前述の4人は直感的に、問題が大きいほど、権限の集中が必要と理解したのではないか。

──原子力発電所事故への対応も後手、後手に回りました。

「想定外」という言葉が言い逃れに使われて批判を浴びた。戦争遂行能力を消したことで、重要な「シンキング・アンシンカブル」、つまりありそうもないことを想定する、という能力も消えてしまった。戦争遂行能力を持つ核大国は核戦争を覚悟した。だから、冷戦期に米国もソ連も中国もシェルターを用意して非常食を常備する体制を取った。

津波だけでなく、テロの攻撃、飛行機が墜落する可能性、いろいろなことを考えれば、補助電源を二つ並べて置くのは無意味だ。別の場所に用意するというのは最低限必要な発想だ。中国は奥地に西安のような軍事産業都市があるが、沿岸部が叩(たた)かれたときのことを考えていたわけだ。

──避難生活も長引いていて、被災地にも人が取り残されています。

米国でハリケーン・カトリーナが来たときもそうだったが、避難生活が一定期間以上、長引くと、体調を崩す人がある時点で急に増え、死亡率が上昇する。たいへんに心配だ。行政はボランティアが来るとかえって混乱するから来るなと言っていたが、被災地に取り残されて、いまだに物資が届かないという人たちがいる。膨大な政府の仕組みというのは、非常時に機能しないことがはっきりした。

対応の遅れの背景には、中央割拠と地方への丸投げの構造がある。中央は縦割りで、かつそれぞれの組織が地方へ丸投げする。

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