その約2週間後の7月14日、3社は今後の対応について協議する会合を開いている。東京海上と三井住友海上の2社はその会合で、ヒアリングシートの信憑性や追加調査の進め方が主な議題になると考えていた。しかし、ビッグモーターの幹事会社を務める損保ジャパンが示した方針は、「追加調査はしない」「再発防止策の策定を順次進める」というものだった。
当然ながら2社は猛反発した。「なぜ追加調査が不要なのか」「不正の指示があったと従業員は証言していたはずだが、何をもってこのヒアリングシートに信憑性があると考えたのか」「水増し請求の被害にあった顧客への対応や案内はどうするつもりなのか」などと迫った。
それに対して損保ジャパンは、「追加調査を実施してもこれ以上の結果は得られない」「従業員本人が署名している以上、ヒアリングシートには信憑性がある」「被害を受けた顧客への案内は現時点では考えていない」などと応じてみせたという。
不正疑惑の隠蔽、被害者置き去りと批判されても仕方がないような対応だが、これほどまでに不可解な対応で損保ジャパンが押し切ろうとしたのはいったいなぜなのか。
証言内容が一変した舞台裏を把握していた可能性
可能性として考えられるのは、従業員の証言内容が、「不正の指示があった」から「なかった」へ一変したその事情を把握しており、かつビッグモーターを通じて得られる100億円超の保険料収入を減らしたくないという思いがひときわ強かったから、ということだろう。
証言内容が一変した経緯については、損保ジャパン、ビッグモーターともに「調査中」としているが、取材を進めるとそれぞれの言い分が食い違っている様子が垣間見える。
ヒアリングに携わった損保ジャパンの出向者は、ビッグモーターの板金部長(当時)から、不正の指示はなかったという内容のヒアリングシートを手渡されたといい、「これに署名をもらってこいと指示された。従業員には事情をすべて話し、何とか署名をしてもらった」と主張しているもようだ。
一方で、板金部長は「書類の内容はよく見ていない。覚えていない」という主張に終始。ヒアリングを受けた従業員は「不正の指示がなかったなどと、証言した覚えはない」と話しているという。
どの主張が真実なのかは不明だが、損保ジャパンの出向者とビッグモーターの従業員は、不正の指示があったと認識していたことは紛れもない事実だ。
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