診療再開へ奮闘する東松島市の歯科診療所、移動健診車の貸与を受け巡回診療へ

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 一方、「国道45号線から山側の住宅地は津波の被害がなく、多くの住民が残っているため、診療の再開が待ち望まれている」(同氏)という。

医療機関の休止とともに職員の解雇が相次ぐ中でも、五十嵐院長は4人の職員の雇用を守った。震災発生直後は通勤手段がないため集まることができなかったが、全員がそろった3月31日、五十嵐院長は職員に歯科診療所再開の考えを伝えた。4月には職員総出で1週間かけて床下からヘドロをかき出し、診療器具を整理し直した。取引のある歯科技工士もヘドロ除去作業のために駆けつけた。

うれしい知らせも飛び込んできた。京都府歯科医師会が移動健診車を貸与してくれることが5月初めに決まったのだ。ゴールデンウィーク明けから健診車を用いて、各地の避難所などで健診や簡単な診療ができることになった。
 
 「石巻歯科医師会に支援をお願いしたことが実った。宮城県歯科医師会や日本歯科医師会を経由して要請が伝えられたようだ」(五十嵐院長)。避難所ではこの間、一度も歯のチェックを受けたことのない住民が多いだけに、移動健診車による巡回健診・診療は画期的だ。

歯科診療所本体の再開に向けた作業も進みつつある。「工事業者による床板の張り替えなど工事が順調に進めば、機器搬入後の6月初めには診療を再開できそうだ」と五十嵐院長は語る。「今までの債務1000数百万円に加えて、設備の新規購入や建物の補修で2000数百万円以上かかる見通し。それでも新規開業と比べれば少なくて済む」と五十嵐院長は動じない。

被災地では、不屈の精神によって医療の立て直しが始まりつつある。
 
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)


■歯科診療所の再開には多額の資金が必要になる(納入業者による見積書の一部)


■歯科診療所に付属する部屋に泊まり込んで、復旧作業に当たっている

 
 

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