高級メロン農家育てる、銀座千疋屋の凄い仕事術 フルーツ生産者を育成するコーチの技【前編】

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山下メロン園では、温度管理されたガラス張りのハウスで年間を通して、1万4千個を生産・販売している。価格は時期によって異なるが、1玉6700円から1万6000円台。

銀座千疋屋
ガラス製の専用温室で年間1万4千個のメロンを栽培している(写真:筆者撮影)

自らの腕試しにと、独立直後に始めたのが「食べごろ指定」の有料オプションサービス(500円)だ。1つひとつの注文票には、誕生日や結婚記念日など、メロンを囲む特別な日のシーンが添えられている。「おいしさの頂点」を外すわけにはいかない。到着予定日の逆算から、収穫のタイミングや保管の温度管理を注文者ごとに調整する追加のサービスは、導入当初から顧客の支持を集めた。

「かなり神経を使う作業で大変なんですが、ほとんどのお客様が遠慮なく申し込んできます」と笑う。

収穫時期の見極めでも、山下さんは従来のやり方を自ら変えた。流通までの十分な日数を考慮し、収穫後の追熟を前提にやや若い実の状態で収穫を始めることが一般的だが、山下さんは可能な限り日にちをかけ、ギリギリまでじっくりと熟度が進むのを待つことにした。

欲しいメロンをつくるのが生産のプロ

これも、市場を介さず顧客や店舗に直接届けられるからこそ選択できた「経営判断」の1つ。だが一歩間違えれば、売り切れず大きな損失を被ることになる。そんな懸念を吹き飛ばし、判断を後押ししたのも、石部さんのこんな一言だった。

「日数がないから売り先がないというのは、売る側の問題。食べごろまで3日しかないなら、3日の売り方、1週間なら1週間の売り方を考えればいい。商品を仕入れて売るのは俺らプロの仕事。生産のプロとは、こちらが欲しいメロンをつくることだよね」

山下さんはいう。

「自分の手で、日本の最高峰に納めるものが作れたかどうか。『銀座千疋屋』は、自分の今の立ち位置を確認する場所。いつかあそこに納めるものをスタンダードにしていきたい。誰もができないレベルだからこそ目指しがいがある。日本一、世界一を狙っていくのに、まだまだできていないことがたくさんあって、終わりが見えません」

どんなプロの世界でも言えることだが、職人技を極めるだけでは、「経営」は成り立たない。持続可能な果物づくりを支える設備や人づくりへの投資も見据えなければならない。

「ここらへんのメロン農家の年商は、かつてバブル経済に沸いた頃、7000万円を得た農家がおそらく最高記録。その後デフレもあって価格が下がり、コロナ前までは多い方で4千万円台が数人というところでした」(山下さん)

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