高級メロン農家育てる、銀座千疋屋の凄い仕事術 フルーツ生産者を育成するコーチの技【前編】

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「ものがよくても、誰にでも声をかけるわけではありません。いいものを作り続けるには、思いや技術があるだけでは足りない。どんどん進化する栽培の技術革新につねに関心があって、新しい情報を求めているか、必要であればこれまでのやり方を変えていけるか。その意味で山下はおもしろい、と思いました」

「山下、よくなったね。(組合)やめたほうがいいもの作るね」

独立したての山下さんに、石部さんは率直に感じた、変化の兆しを伝えた。クオリティーが着実に上がっているという実感は、山下さん自身にもある。

お客さんが直接評価、言い訳は通用しない

「組織の中にいると、ほかの人のメロンより自分が劣っているか優れているかばかりが気になって、その範囲の中で『これくらいでいいや』と落ち着いてしまっていたのだと思います。でも今はお客さんが、直接評価を届けてくる。美味しくなければ次は二度とない。言い訳なんて通用しません」

石部さんの、メロンの仕上がりを見極める目は言うまでもなく、「果物にどう向き合っているのか、態度まで見透かされる感じがする」と山下さん。農園を訪れては時折、ドキッとする言葉をポツリと残していくという。

「趣味の夜釣りにハマっていたころ、石部さんがふと農園に来て、『マスクメロンはムスクの香りが名前の由来でそれが特徴だけど、お前のは、メロンの香りがしない』って言ったんです。すぐに原因が思い当たりました。それ以来、釣りをすっぱりやめて、メロンだけに一点集中です」と苦笑いする。

「どう思う?」「なんでこうなると思う?」

石部さんの問いに、いつも答えはない。

ややもすると素通りしてしまいそうな小さな変化や違和感に立ち止まり、目を向けさせ、考えさせる。全国各地の生産者との「生きた情報」でつながる石部さんは、土と果物と日々格闘する山下さんにとって、いわば外界に通じる「窓」のような存在だ。石部さんが電話ではなく、農園を訪れ、直接言葉を交わすからこそ、その場に落ちている自らの詰めの甘さや盲点に、気づくことができるのだという。

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