JR東vs.東急・小田急、通勤で強い会社は? 通勤サービスは関東・関西でどう違うのか
一方、関西の私鉄はというと、1995年の阪神・淡路大震災が、変化のひとつのきっかけとなったように思われる。
この時、阪神間を走るJR神戸線、阪急、阪神などが大きな被害を受け、長期間不通となったが、いち早く復旧できたJR西日本が、他社の分の輸送も引き受けるべく、新型車両の大量投入と同社の看板である高速列車「新快速」の増強に乗り出したのだ。
関西私鉄で広がる「スルッとKANSAI」
その結果、並行する他社から利用客の転移が起こった。それまで運賃の安さで優位に立っていた私鉄が、所要時間の短さを武器とするJR西日本の攻勢に対し、受け身の立場となったのである。
震災の被害に加えて不況の影響もあり、経営体力があるJR西日本に対抗できるだけの、大規模な投資が行える会社もない。そこで、ライバル関係にあった私鉄各社の「協調」がクローズアップされることとなった。
もっとも象徴的かつ社会的影響が大きかったのが、村上ファンドによる株式買収に端を発し、阪神電気鉄道が2006年に阪急ホールディングス(現在の阪急阪神ホールディングス)傘下に入ったことだった。もともと、同社の本線は阪急神戸線と梅田―三宮・元町間で激しい競争を演じていたはず。だが、これより阪急電鉄とはグループ会社同士となり、当然のことながら、互いに協力関係を築くことになっている。
そこまでの社会的なインパクトはなかったものの、震災翌年の1996年に運用を開始した、プリペイドカードを用いたストアードフェアシステム(自動改札機による運賃自動引き落としシステム)「スルッとKANSAI」も、協調方針への転換の萌芽と言えるだろう。この時、最初に同じシステムを導入したのは、阪急、阪神、大阪市交通局、能勢電鉄、北大阪急行の5社局で、現在は関西一円の鉄道、バス会社に広がっている。
たとえば「スルッとKANSAI」加盟各社は、磁気カード、ICカード「PiTaPa」の共通利用のみならず、共通化されたシステムの利点を活かして、複数の社局にまたがる割引乗車券を磁気カードで発行し、自社線内に留まらない旅客誘致、相互送客に努めている。全国的に知名度が高い観光地である京都、神戸、高野山などを対象としたものが多く、代表的なものとしては、2日または3日間、加盟全社の路線が乗り降り自由となる「スルッとKANSAI 2day/3dayチケット」がある。
こうした方向性は、2009年に阪神なんば線が開業し、近鉄奈良線と相互直通運転を開始した辺りから、さらに顕著となり、現在に至っている。かつては自社沿線の観光地、または百貨店などグループ会社の広告で埋まっていた電車内においても、他社沿線の観光地の広告も一緒に揺れているのが今では当たり前だ。
なお、「スルッとKANSAI」の磁気カードは昨年秋、数年後には廃止となり、新たなICカードによるシステムに切り換えられる見込みとの報道があった。けれども、一度結ばれた協調関係は簡単には崩れまい。
鉄道は線路という固定された装置が必要な産業だ。それゆえ主たる事業を行う場所を移すことができない。また、現在では巨額な費用がかかるため、事業拡大という意味での路線延伸は容易ではなく、阪神なんば線以降、具体化し着工されている路線は関西にはない。
経済の地盤沈下が叫ばれて久しい関西では、こうした欠点を補うため、生き残るための知恵としての協調が生まれ、発展してきたと解したい。
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