「下請けイジメ」糾弾された大企業のまともな弁解 中小企業のコスト感覚の欠如も交渉を複雑に

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浄水関連企業で調達部長を務める方が面白い話をしてくれた。

「機器の組み立て委託している零細企業の外注先がありました。納期を守らないんですよ。理由は部材が集まらないから。しかたなく、部材入手のお手伝いをしていました。部材を支給したり、代わりに納期を交渉したりね。もちろん本来は、外注先が担う仕事ですよ。

さらに現場の人たちは、こちらが手伝っているのに『こんな仕事はもともとやりたいわけじゃない』とまでいわれた。しかも、組み立てをお願いする委託価格が安いわけじゃない。だから当然、『もう契約期間が過ぎたら取引関係は解消しましょうか』と話をしていました」

大企業は被害者か、加害者か

両社の意思が合致した結果のように思える。ただし終わらなかった。

「すると、先方の社長がいきなり登場しました。ウチの社長室に乗り込んできて、『あなたたちは悪魔か。なぜそんなことをするのか』と言ったようです。いわく、『これまではずっと御社のためにがんばってきたのに、価格が高いから、安くしなければ取引を停止すると社員を脅したらしいですね』と。これまではこちらでリスクをとって材料発注をしていたのに、ひどいじゃないか、とも言っていたようですよ。現場から報告が上がっていなかったのかわかりませんが、これほど認識が違うものなのですね」

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優越的地位の濫用は、いわゆるパワハラに近い。ところでこのところ「逆パワハラ」なる言葉があるように、「非優越的地位の濫用」なる言葉もありうるかもしれない。

なお、私の立場は、むしろ大企業の下請け業務をこなす中小企業を運営している。本来は下請けイジメを摘発する立場にあるかもしれない。

しかし、下請け側の意見だけを取り上げるのではなく、あくまでコンサルタントの立場から見える風景をできるだけ記述しておいた。また現場からのレポートを続けたい。

坂口 孝則 調達・購買業務コンサルタント、講演家

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さかぐち たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。

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