それは言いすぎかもしれない。でも、下請法対象の取引先との交渉は誰もがビビっていますよ。だって、抑圧的なつもりはなくても、相手がそう感じると優越的地位の濫用とみなされかねないですからね。就職面接で圧迫面接ってあるでしょう。面接官は圧迫面接と思っていなくても、受験側が圧迫面接と感じて、それをSNSに投稿するじゃないですか」
下請法対象企業と接する社員が「再教育」を受ける訳
そこで複数の企業から聞いたのは、まるで新入社員のマナー研修のような教育実態だった。あらためて下請法対象企業と接する可能性がある社員には再教育を行う。いわく「丁寧な口調で接する」「相手の意向を尊重する」「録音されているつもりで話す」。そして、少しでも懸念がある話題はしない。
そこには歴史が教えてくれる、親事業者と下請け事業者の人間的な対話は存在しないかのようだった。多くの企業では下請法対象企業と接する際にはできるだけ上長が同席する。接したあとには議事録を残し、さらに下請け企業にサインしてもらうことを求めている。議事録の書き方も講習があり、高圧的だと少しでも誤解を与えるような記述はしない。
なぜそのような徹底した方法を取るのか。インフラ企業の調達マネージャーが教えてくれた。
「以前に、仕入先から商談を隠れて録音されていたことがあったんです。その商談のときに、こちらの社員があるビジネスについて『拡大見込みだ』と話しているんです。するとそのビジネスに関わる仕入先は『拡大の見込みであれば、弊社も設備を増強していいか』と質問している。そんな質問されると『悪くはないのではないか』と社員が答えている。
だけど結果的にそのビジネスは拡大しなかった。仕入先はムダな投資をさせられたといって、ウチの経営陣に殴り込みに来た。『こんな下請けイジメがあっていいのか。ひどい話だ。国に告発する』とかなんとか。でもこちらが強制したわけじゃないから、自己判断でしょう。ただウチは大企業でレピュテーションリスク(風評)を意識しているから、必要以上に注意せざるをえない」。
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