地図で読む戦争の時代 今尾恵介著
戦争と地図とは深くかかわっている。攻撃する側は詳細情報を必要とし、守る側は機密化して隠そうとする。日本でも工場や軍港、飛行場の情報は極秘扱いとなり、一般の地図からは抹消された。地形を読まれないようにその近くの等高線は消されてのっぺりした林に化けている。鉄路の様相も含め地図は平時とは様変わりした。旧植民地も含めて改ざんによる地図の変貌ぶりが、戦前・戦中・戦後の複数の地図を比較しつつ解読されるのだが、戦争の裏面史としても面白い。
改変あるいは消滅した新旧の地図情報を比較しつつ空想をめぐらすのは、地図好きは言うまでもなく、一般の読者にも興趣は尽きないだろう。戦争にうそはつきものとはいえ、地図作成の専門家たちが改ざん命令に消極的抵抗を行い、いい加減な修正作業をした痕跡が再三指摘されるのも興味深い。望蜀ながら、消された軍関連施設が米軍機の爆撃から無事だったか壊滅したかも知りたくなる。(純)
白水社 1890円
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