大震災を日本変革へつなげるための条件--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト
東電は過去にも、原子力発電所の危険な欠陥を隠蔽したことがある。2002年の調査では、東電が政府に虚偽データを提出し事故を隠蔽していたことが明らかにされた。一部の人々は、政府と東電を信頼することができず、比較的安全な東京から逃げ出した。
文化ではなくシステムの問題
政府や官僚に対する国民の信頼喪失は、国内の機能停止を引き起こす懸念もある。
しかしながら、それは必要な変化かもしれない。政府のシステムは旧態依然とした要素を抱えている。日本の問題は、文化の問題ではなくシステムの問題なのである。
日本政府はつねに温情主義的で、命令系統は複雑かつあいまいである。戦争中、天皇は理論的には全能の神だったが、実際の権力はさほど持ち合わせていなかった。日本に独裁者が存在したことはない。意思決定は、官僚と皇室、政治家、軍部の間の舞台裏での交渉や内外のさまざまな圧力、時には暴力によって左右されてきた。
戦後の政治的秩序は戦前ほど硬直的ではなくなったが、それでも不透明なことに変わりはない。官僚は地域への利益誘導に汲々(きゅうきゅう)とする政治家の操り人形として行動し、また大企業とも共謀してきた。日本が西欧社会に追いつくことを目指し、官民の資源が経済成長のために集中的に使われている間は、その制度はうまく機能した。
事実、日本的なシステムは、利己的な利益を追求するロビイストや面倒な労働組合、過剰な介入をする政治家などにうんざりしていた西欧諸国にとっては羨望の的であった。そうした西欧諸国は、現在では、(日本と同様に不透明で理解しがたい)中国の政治システムの温情主義に心を奪われている。
だが、そうした日本のシステムこそが東電に関連する問題を引き起こした。官僚と企業経営者の間に密接な結び付きがあったため、電力会社を厳しい規制や政治的な監視の下に置くことができなかったのだ。官僚と経済界の緊密な関係は、退職した多くの官僚がそれまで自分たちが規制していた企業の取締役に名を連ねている点に表れている。