地理を「学ばない人」「学ぶ人」に大きな差がつく訳 社会に出た今こそ身につけたい教養とは

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日本の食料安全保障に視点を当てると、どうしても食料自給率の低さが注目され、「とにかく自給率を上げよう! 日本の農業を強くしなくては」という議論に終始しがちですが、これ以外にも課題解決の方法があります。

日本は、国産食料と上位4カ国(アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ブラジル)からの輸入食料で供給カロリーの85%(小麦、大豆、肉類など)をまかなっています。すべて良好な関係を維持している国々ですが、シーレーンの崩壊により輸入が途絶する可能性もあり得ます。

これを回避するためには、少数の友好国以外にも、困ったときに食料を提供してくれる国と関係を築くための「食料安全保障外交」を平時から展開しておく必要があります。新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ危機(ウクライナからアフリカや中東諸国への輸出途絶、ロシアによる肥料の輸出制限など)で露呈されたように、世界の食料供給網(フードサプライチェーン)が主要な生産地と少数の海運会社に集中している脆弱さがあるため、有事でも揺るぎない流通経路を確保しておくことが重要なのです。

たった1つのテーマでもこれだけ幅広い分野を取り扱うのが地理です。地理を学ぶことによって、現在世界が抱えている多くの課題(地球環境問題、食料問題、難民問題、人口問題、エネルギー問題、都市・居住問題、民族・領土問題など)にもしなやかに対処できるようになります。自然地理(理系の地理)と人文地理(文系の地理)をつなぐ文理融合的な性質も学ぶ上で魅力ですね。

そして地理を学べば、国際社会を生き抜くための人間力(生き抜く力)まで身につけることができます。また、自然災害から身を守る防御力を獲得できます。さらに、地理との出合いは、competence(人生を勝ち抜く能力)やresilience(困難を克服する力)を磨き、真のグローバル人材になるための、大きな助けになると確信しています。

地理教育に一生を捧げたいと思ったわけ

仕事柄、全国各地で多くの方々との出会いがあります。大学や高校の先生方、受験生・高校生のみなさん、そして保護者の方々などなど。保護者からしばしば尋ねられるのが、「瀬川先生は、どうして地理の先生になられたのですか?」や、「どうして、英語や数学ではなく地理なのですか?」という質問です。

これを聞かれるたびに、思い出すのが「地理をやるのはいいけど、地理の教員は募集が少なくて、間口がとってもせまいのに大丈夫か?」と教育者であった父・母から50年前に言われたひとこと! でも、地理が好きだし、一生をかけて地理教育に携わりたいと思った気持ちがすごく強かったので、周囲のプレッシャーには負けませんでした。

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