日本で広がる「小さな幸せブーム」に感じる違和感 「幸せの自己責任化」が起きてはいないか

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極端な話、「幸福」がいわゆる「ハッピーホルモン」「幸せホルモン」(主な神経伝達物質としてセロトニン、オキシトシン、ドーパミンが取り上げられることが多い)の働きに還元されるのであれば、運動や瞑想などによって分泌させれば事足りるということになると同時に、向精神作用のある薬の投与で代替することも正当化する。そうなると、もはや脳内の物質のバランスの問題でしかないという形に矮小化されてしまう。

事実、幸せのレシピ探しに余念がない「幸福感ジャンキー」とでも評すべき人々は確実にその数を増している。

競争の舞台は、一昔前の出世や高報酬といった金銭的なものから、ストレスフリーや精神的な充足といった非金銭的なものへと移行しつつあり、操作の対象が自己の心身にのみ焦点化されがちになっている。そこで生じるのは、恐るべきことに経済状況の悪化や国家政策の失敗、社会的な不平等といった外部要因の過小評価である。

幸福と人間関係は切り離せない

「幸福至上主義」に傾倒した人々は、むしろこのような困難にこそ幸福になるための自己変革が有効との確信を深め、より幸福度を向上させる自己改善に励むというサイクルに熱中することになる。奇妙なことではあるが、これは、リスキリングに象徴される現在の労働者に求められている自律性や柔軟性、レジリエンス(適応力)といった新時代の行動規範と一致する。そのため、政府や企業にとっては体制補完的なものとして機能してしまう。

加えて、もう一つ重要なことは、さまざまな研究から幸福と人間関係が切っても切り離せないことが明らかになってきたことだ。

ハーバード成人発達研究で知られる心理学者のロバート・ウォールディンガーとマーク・シュルツは、同研究以外の多くの成果を踏まえたうえで、「よい人間関係を育むほど、人生の浮き沈みを切り抜け、幸せになれる確率も高まる」「他者との交流の頻度と質こそ、幸福の二大予測因子である」と結論付けている(『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』児島修訳、辰巳出版)。

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