チェルノブイリの経験を生かして悲劇を回避せよ--松本市長/医師・菅谷昭《下》
--チェルノブイリの経験から見て、今後何が必要でしょうか。
それは、土壌や食品、水など放射能汚染に関する疫学調査だろう。前述したように、ベラルーシでも子どもに甲状腺がんが増えたのは事故から5年後。しっかり追跡調査する必要がある。また、土壌汚染の状況は早めに注意すべきだ。チェルノブイリ事故で、放射性ヨウ素やセシウム、ストロンチウムなどがどこでどれほど検出されたかという地図がある。これを見ると、原発近くはもちろんのこと、そこから200~300キロメートル離れたところでも高濃度で汚染された地域がある。後になり、ホウレンソウや根菜類などの野菜で検出されたといったことが、今回も思わぬ所で出てくる可能性があるだろう。
--これまで、「クリーンエネルギー」として原発推進の気運が高まっていました。
ベラルーシから日本に戻った時には、「今後、これ以上は原発を造らないでほしいな」と思った。とにかく今ある原発の危機管理だけは、きちんとやってほしい。
原発が引き起こした事故で、国家の使命とは何か、すなわち国民の命を取るのか、あるいは産業・経済を取るのかという二者択一、ものすごい選択を迫られると思う。難問とは思うが、国民の命を先行させ、非常事態として国が早めに手を打っていたらもっとうまく収束させられたのではと思うと、本当に残念だ。
すげのや・あきら
1943年長野県生まれ。信州大学医学部卒。医学博士(甲状腺専門)。91年からチェルノブイリ被災地での医療支援活動に参加、96年から2001年までベラルーシ国立甲状腺がんセンターなどで、主に小児甲状腺がん患者の治療に当たる。02年長野県衛生部長。04年から現職、現在2期目。著書に『チェルノブイリ診療記』『チェルノブイリいのちの記録』など。
(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2011年4月23日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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