医師が警鐘「RSウイルス」真夏に流行の異常事態 ワクチン実現は間近だが、新生児は打てない?

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今のところワクチンは1回接種だが、臨床試験の結果次第ではもっと増える可能性が高い。通常のRSウイルス感染でも数年で免疫が低下して再感染するくらいだから、ワクチンの効果も永続するとは考えられない。肺炎球菌ワクチンのように、数年おきに接種を繰り返すことになるとの見方が強い。

新生児はワクチンで守れない

もう1つのRSウイルスワクチンの問題が、新生児だ。

RSウイルス感染症は、とくに新生児期から乳児期の赤ちゃんで細気管支炎や肺炎など重症化の心配が大きい。

しかも周囲の大人はRSウイルスに感染して発病しても、正直なんてことはない。風邪と一緒で鼻が詰まり、鼻水がノドに垂れ込み、咳が長引くくらいだ。だからお父さんが会社で簡単にもらってきて、赤ちゃんにうつしたりする。

承認申請中のRSウイルスのワクチンは高齢者向けだが、これを赤ちゃん用に開発すればいいと思われるかもしれない。ところが、生後すぐは免疫系が未熟なため、ワクチンを打っても効果が得られるとは限らない。ワクチンはあくまで、自分の免疫システムに病原体の侵入を錯覚させて、戦闘態勢を整えさせるものだからだ。

だからインフルエンザワクチンも新型コロナワクチンも、生後6カ月以降が接種対象になっている。RSウイルスワクチンも、6カ月未満の乳児が接種できるようにはならないだろう。

なお、これとは別に、赤ちゃんのRSウイルス感染症の重症化予防を目的とした「シナジス」という抗体医薬がある。注射には違いないのだが、ワクチンとは違う。ワクチンは武器となる抗体などを体に作らせるのが目的だが、抗体医薬は人工的に合成した抗体そのもの(モノクローナル抗体)を体に入れてやるものだ。

ただ、難点は非常に高価なことだ。抗体医薬は製造に大きなコストがかかり、大量生産できないせいだ。そこで日本では保険で打てる条件が厳しく定められ、早産や慢性肺疾患、先天性心疾患、免疫不全など、感染症に対する抵抗力の弱い赤ちゃんに限られる。

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