辻村深月「凍りのくじら」感想文をプロが書くと… 学生必見!書評家・三宅香帆さんが書き方を解説

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なぜその箇所が印象に残ったのか? 

・自分も同じような体験をしていた
・自分とはまったく違う思考回路で驚いた
・友達が同じようなことを言っていた
・あまり聞いたことのない価値観だった

といったように、自分と照らし合わせて、印象に残った箇所の感想を「なぜ自分はそう感じたのか」考察していきます。

三宅さんが書いた感想文は…

たとえば、例を書いてみましょう。

理帆子が学校外の友達と遊ぶ前に、内面を言語化する場面。私は『凍りのくじら』という小説を読んでいるなかで、そこがとくに印象に残りました。具体的には、以下のような描写が綴られています。
「笑顔やハート、絵文字の多用された文面。ディスプレイに触れると微かに温かい。
頭が足りなくて、無駄な暇潰しのために寂しいから集まって、そして友達ごっこ。私が彼女らに持っている感想は確かにこの上なく正しい。けれど私は今夜も出かけていく。
一人きりでいると息が詰まるし、みんなで騒いでいても息が詰まる。私の『少し・不在』は、最近いよいよ深刻だ」(辻村深月『凍りのくじら』講談社文庫)
なぜここが印象に残ったのか。それは、私自身、同じような感情を持っていたことがあるからです。
一緒にいても、あまり楽しくない友達と、それでも一緒にいたい。中学時代、私はそういうふうに感じるたびに、「なぜ自分は楽しくない時間を過ごしてでも、友達と一緒にいたいのだろう?」と不思議に思っていたことがあります。
もちろん、教室で浮かないため、という理由もあったでしょう。しかし、それ以上に、理帆子の言葉を読んで、私は納得したのです。
「ひとりでいても、みんなといても、同じように『ここにいるべきではい感じ』を持っていたからなんだな」と。
あの頃、私は友達と一緒にいなかったとしても、とくに楽しい時間は送れていませんでした。むしろ、ひとりでいると、たしかに息が詰まりました。
友達と一緒にいても、息は詰まる。でも、ひとりでいたとしても、同じように息は詰まる。だったら友達と一緒にいるか、と思っていたのです。

この感想文は、

・引用した箇所が「印象に残った」

・なぜ印象に残ったのかというと「自分も同じような感情を持っていたから」「しかしその感情を自覚していなかった」

……というふうに、印象に残った箇所について、その場面が印象に残った理由を、自分の体験と照らし合わせて考察しています。

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