歴史的な円安の後は一気に円高になるのだろうか アメリカの利上げ終了後の為替はどうなる?

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購買力平価対比の円高は1995年をピークに、1986年~2012年の30年弱続いた。この長期の円高が解消され、購買力平価対比での円安が定着するのは、アベノミクスよる金融緩和強化が始動した2013年以降である。

実は、1990年代半ばから2012年までの購買力平価対比で円高だった時期は、日本のデフレ時代と重なっている。

このため、日本銀行の金融緩和が不十分だったことが、当時円高が続いた主たる要因だと筆者は考えている。日銀がインフレ目標を明示せずに事実上の「ゼロインフレ目標」政策を続けることで人々のデフレ期待が高まり、為替市場では円高期待が根強く認識された。そして円高がさらなるデフレと低成長をもたらす、という悪循環が当時の日本経済では続いていたのである。

YCC政策変更でも、日銀の緩和修正のスピードは緩やか

2012年の第2次安倍政権誕生を機に、日本銀行に「2%物価目標」が課されたことなどで、日銀の金融緩和姿勢への信認が高まった。長きにわたる行きすぎた円高が解消され、それとともに「デフレではない経済状況」がようやく実現しつつある、ということだ。このため、2022年からの日銀による金融緩和徹底による円安進行は、脱デフレの最後の後押しとなるプラスの側面の方が大きい、と筆者は考えている。

デフレと経済低迷が20年以上続いたことを踏まえると、デフレから完全に脱却するために、日銀による金融緩和が長期化するのはやむをえないと言える。日本でも物価高が問題視されているが、諸外国と比べると物価はなお安定した領域での推移が続いている。

筆者は、7月27~28日に開催される金融政策決定会合で、日銀がYCC(イールドカーブコントール、長短金利操作)の修正に踏み出すとは予想していない。

ただ、仮に、YCC修正が始まっても、黒田東彦前総裁の路線を継承している植田総裁の姿勢が大きく変わらなければ、金融緩和修正のスピードは、米欧対比ではかなり緩やかなペースで進むのではないか。

そうであれば、購買力平価対比での円安が一気に解消が進む格好で、急ピッチに円高が進む可能性は高くないだろう。

2010年頃まで30年間も購買力平価対比での円高が続き、稀にみるデフレ不況を経験した日本経済に対するダメージは相当大きかった。日本経済が依然として正常化の過程にあるとすれば、ドル円相場は購買力平価対比で円安である1ドル=120円付近で長期間推移しても不思議ではない。適度な通貨安は経済衰退の象徴というよりも、デフレ克服と経済正常化を後押しする政策対応の帰結として位置付けられるだろう。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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