金融引き締めによる経済減速が大きくなっていない最大の要因は、労働市場が過熱状態から程よい状況へと、緩やかな調整にとどまっていることにある。このように、同国経済は、FRBが目指すソフトランディングの経路をたどりつつある。
もっとも、同国の金利が不安定に上下している中で、いわゆる逆イールド(長短金利の逆転現象)が、近い将来の同国の景気後退(2四半期連続以上のマイナス成長)を示唆する状況は変わっていない。ただ、逆イールドが将来の景気後退を招くというのは経験則の1つにすぎず、今回の局面では当てはまらない可能性が高まっていると筆者は考えている。
利上げ終了なら、急激なドル安円高が進む?
ところで、もしFRBによる利上げが最終局面に入りつつあるのだとしたら、2022年から続くドル高基調も同様に転換する可能性が高まる。筆者の見立てどおりにドル安が始まるとすれば、今後どの程度円高が進むだろうか。
報道等でも伝えられるとおり、現在の1ドル=140円付近という水準で外国から日本のモノやサービスを見たとき、かなり割安であることは間違いない。実際、IMF(国際通貨基金)が算出した購買力平価(長期的に見て、2国間の財・サービスの価格が均衡する水準)は、2023年時点で1ドル=約90円だ。単純比較すると、円は対ドルで約35%も割安であり、1970年代半ば以降で現在は最も円安が進んでいると位置付けられる。
ということは、足元では円は歴史的に割安な水準にあるため、仮にドル安が始まれば、急ピッチに円高に転じるとの懸念が浮上するかもしれない。ただ、購買力平価は、よく知られているとおり「理論値の1つ」であり、為替予想の目安としては事実上ほぼ使えない。
実際に歴史を振り返ると、日本においては、購買力平価対比では円高の時代がかなり長く続いた。1995年には4月に1ドル=79円75銭まで円高が進んだが、当時の購買力平価では1ドル=約170円だったので、円は実に2倍以上も通貨高だった。つまり、このときは、方向性は真逆だが、現在の「円安度合い」よりも、極端な「超円高」だったことになる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら