もし、ビッグモーター自身が一般企業同様に不祥事を認め、真摯な謝罪コメントを発表していたら、どうなっていただろうか。当事者が事実と認めているのだから、メディアは上記のような膨大な手間を要する事実確認をすることなく、記事にできる。ビッグモーターは「完全黙殺」を貫くことで、結果的にメディアに「事実確認取材」というハードルを課し、記事化を防いでいたのだ。
最後は「ビッグモーターの主要な顧客はネットの情報を見ない層であること」だ。ビッグモーターはラジオや新聞の折り込み広告を積極的に用いていた。つまり、主要顧客はこうした媒体の聴取者であり、購読者なのだろう。ネットの情報に接する層であれば、これまでもビッグモーターの不祥事や炎上を目にする機会は少なくなかった。顧客がネットに普段から親しんでいる層であれば、ビッグモーターはネット世論対策として何らかの反応を強いられていただろう。
(関連記事:ビッグモーター不正報道「完全黙殺」成功の諸事情)
だが主要顧客はあくまで「ネットにほとんど接しない層」。それゆえ、ネット世論対策など必要なかったのだ。何らかのコメントを出すということは、ビッグモーターにとって、「寝た子を起こす」に等しい所業だったのだ。
このように絶妙なバランスの上で機能してきたビッグモーターの「完全黙殺」戦略だが、今、終焉を迎えつつある。
「完全黙殺」戦略は、何をきっかけに崩壊したのか。そして、今後、ビッグモーターをめぐる報道はどのような展開を見せていくのか。
かつてはテレビ東京の経済部記者として、現在は企業の広報PRを支援している者として、私の取材経験、そして広報PR戦略コンサルタントとしての経験を基に、ビッグモーターが迎えるであろう「極めて近い未来」を予測していきたい。
「会社ぐるみ」の衝撃的な不祥事
7月上旬、各メディアはビッグモーターによる保険金不正請求について、弁護士ら外部専門家による特別調査報告書の内容を次々と報じた。修理費用を水増しして保険金を不正に請求するため、以下のような行為が行われていたという。
しかもサンプル調査の対象となった2717件のうち、44%にあたる1198件が「何らかの不適切な行為が行われた疑いがある案件」として検出されたという。まさに「会社ぐるみ」と呼ぶにふさわしい衝撃的な不祥事だ。
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