ひとつは記者の質問の仕方だ。記者は「この事案に対して、対処を検討されているのか」と尋ねている。こう聞かれて「特に考えていません」と答える大臣などいない。記者として「調査のうえ、処分を検討する」という答えを引き出そうとする質問、つまりこの問題に「火をつけようとしている」のだ。
もうひとつのポイントは、斉藤大臣が明確に「ヒアリングを行って、適切に対応」すると回答している点だ。しかも「道路運送車両法違反」という具体的な法律まで挙げている。これは大臣が記者に聞かれて、咄嗟に答えられる内容ではない。大臣会見の前に、国交省として厳しい処分を行うという方針が事実上、決まっていると見るべきだろう。
この質問をした国交省記者クラブの記者も官僚に事前取材し、処分の感触を得たうえで、大臣に質問したのではないだろうか。
国交省による調査、そして処分が確定的となった現状。こうなるとメディアの報道連鎖はもはや止まらない。まず「立ち入り調査」がメディアで大々的に報じられることになる。国交省による調査結果と処分内容も同様だ。
国交省による指導には不正請求された被害者への返金も含まれることになるだろう。当然、メディアとしては被害者の声を集めることになる。不正に加担した元社員の声も取材したいところだ。
一切表に出てない兼重宏行社長は、メディアにとって「幻の存在」だ。つまり、その肉声を取れれば「ニュースバリューが高い」ということになる。カメラ前での「初」コメントを求めて、ビッグモーター本社や社長の自宅に張り込む記者も出るかもしれない。
ビッグモーターは極めて難しい局面を迎えるだろう
さらにビッグモーターにとって「不運」なのは、今が7月ということだろう。7月、そして8月はメディアの世界では「夏枯れ」などと言われる季節だ。
夏は企業の新製品発表なども少なく、国会も閉会している。記者にとって、夏は報じる材料が「枯れる」季節なのだ。そんなニュースの閑散期の、今回の不正である。ほかに報じるべき材料が少ないので、おのずと大きく扱われることになる。
しかもビッグモーターの今回の対応はメディアからの「ツッコミどころ」が多い。これだけの大々的な不祥事を起こしたにもかかわらず、処分は「社長が報酬100%を1年間返上」「副社長は報酬50%を3カ月返上」などにとどまっている。誰も辞めず、降格すらされないのだ。
長年、「完全黙殺」によって、危機を顕在化させることを「結果的に」防いできたビッグモーター。だが、いったん開いた「パンドラの箱」はもはや閉じることはない。報道に追い込まれる形で、経営的にも極めて難しい局面を迎えるのではないか。
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