「きれいごと」を言い合っても世の中は変わらない 宋文洲著 ~面白くてためになるオリジナル警句

「きれいごと」を言い合っても世の中は変わらない 宋文洲著 ~面白くてためになるオリジナル警句

評者 原田 泰 大和総研顧問

 軽装版の本だが、ここには深い思想がある。

その深さは、中国の文化大革命と日本で起業した経験から生まれている。文化大革命は人民のためを標榜しながら、人民を傷つけた悪夢だった。著者も、そのただ中にいたが、留学する機会を得て日本に来た。

著者が来た1985年の日本では、バブルが始まり、利益を出してよいという空気が充満していて、文革後まもない中国から来た著者はそこに感銘を受ける。北海道大学で理系の博士号を取ったが、一流企業に就職せずに札幌の中小企業に入った。外国人でも旧帝大の博士には就職差別はなかったが、あえてそうしたのだ。就職先は結局潰れた。そこで著者は終身雇用も家族主義的経営もなかったことを見たという。

98~99年前後は、日本経済はよくなると思ったという。一流大学の学生がベンチャー企業に就職し始めたからだ。しかし、2005年ごろから風向きは変わる。日本は、規制を強化して逆戻りを始めた。若くして成功した人への嫉妬の念は酷いものがあったように評者も感じた。

本書には鋭い指摘が多々ある。いわく、国家はビジョンを示すべきでない。わが国はこれでなくてはいけないということはない。日本企業はとかく中間マージンを取るが、そんなものは付加価値を生んでいない。ドラッカーが言うように、企業の価値は顧客にとって存在価値があるかどうかだ。本物はどこでも通用する。自民党は農民党で都会人からの税金を農村に回す。そのための理論武装(殺し文句)は、この国は大変なことになる、で食糧安保論もその一環という。立ちあがれ日本という党名には、日本はいつ倒れたのかと突っ込みを入れたい──。

面白くてためになる著者オリジナルの警句が満載だ。

そう・ぶんしゅう
経営コンサルタント、経済評論家。1963年中国山東省生まれ。中国・東北大学卒業後、北海道大学大学院工学研究科修了。92年ソフトブレーンを創業、2005年東証1部上場。06年同社会長退任。

生産性出版 1575円 182ページ

  

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