バス転換の留萌本線、「鉄道代替交通」は前途多難 廃線直後に鉄道代替バス路線存廃協議の衝撃

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鉄道ルネサンス構想を発案したのは、北海道外の鉄道会社に勤務する50代男性会社員だ。

沼田町役場に置かれた「JRに乗り続け隊」募集案内(筆者撮影)

2020年から留萌本線の利用促進活動を行うため沼田町が結成した「JRに乗り続け隊」にサポーターとして参加。「地方路線での利用者減少に歯止めをかけるには自家用車と比べて割高と感じる現在の運賃制度を大きく変える必要があると考えた。JR北海道の路線で社会実験を行うことが理想で、先人たちが血の滲む努力で作り上げてきた鉄道の復権への強い願いをもって取り組んだ」と振り返る。

石狩沼田―深川間の3年間の存続については「協議会の席でのJR北海道からの提案だった」と横山町長は話す。しかし、バス転換となると深川までの所要時間が鉄道の15分に対して30分の2倍となるが、バスドライバー不足が深刻化する中で持続可能な鉄道の代替交通を確保できるかは不透明なままで、「いったん路線を休止して、JR北海道ではない事業者に鉄道の運行を引き継いでもらうなどの方法はないものか」と漏らした。

鉄道財源の大半は新幹線へ

交通・鉄道政策に詳しい関西大学経済学部の宇都宮浄人教授は、ガソリン価格の高騰なども背景として「欧州では脱炭素対策から、月間あるいは年間の定額乗り放題パスを格安で販売することにより、公共交通の利用促進を図る取り組みが拡大している」と解説する。特にドイツでは2022年、月額わずか9ユーロ(約1400円)でローカル列車や地下鉄、バス、トラムを含むドイツ全土の交通機関の乗り放題パスを発売。3か月間で計5200万枚を売り上げた。ドイツ連邦政府では「道路の維持は決して安価ではない」とし、連邦予算では鉄道には道路を上回る予算額が配分され、今後は廃止路線を復活させる計画も進められている。

しかし、日本は全く状況が異なる。2022年度、日本政府が市中のガソリン価格抑制のために投じた国費は6兆円を超え、日本の富の海外流出を招く結果となった。さらに、道路統計年報などによると2020年度の道路事業費の総額が6.6兆円でその約半分が維持費に充てられるのに対して、鉄道事業費の総額はわずか5000億円でその大半が新幹線建設費に充てられる。

道路特定財源はすでに一般財源化されており、道路予算の1%を地方鉄道にまわし利便性の向上を行うだけでも、地方の内需を拡大しガソリン消費量を抑制、富の海外流出を抑えることができる。交通崩壊を防ぐためには思い切った政策転換が必要だ。

櫛田 泉 経済ジャーナリスト

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くしだ・せん / Sen Kushida

くしだ・せん●1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。

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