バス転換の留萌本線、「鉄道代替交通」は前途多難 廃線直後に鉄道代替バス路線存廃協議の衝撃

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国土交通省が公開する「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル」では、鉄道による外部経済効果の算出式を定めており、例えば、バス転換による所要時間の増加に伴う経済損失額を「輸送密度[人/日]×365[日/年]×時間差[分]×時間価値」で算出することが可能だ。

これ以外にも、鉄道廃止によりバスではなくマイカーに逸走した住民の交通事故のリスク、家族の送迎負担の経済価値のほか、定住者の減少や観光業の衰退なども鉄道廃止に伴う経済損失として評価が可能で、近年の鉄道の存廃議論ではこうした経済価値も考慮した上で総合的に判断が下されるケースが多い。

JR北海道も北海道庁も責任を放棄

一般的に、鉄道の存廃問題が表面化する地域は財政力が脆弱な自治体が多く、そもそも地方交通維持のために補助金を出し続けることが難しい仕組みとなっている。このような中で地方交通を持続的に維持していくためには、都道府県が市町村に対して果たす役割が重要となる。

例えば、2011年の新潟・福島豪雨で甚大な被害を受け2022年に上下分離により災害復旧した福島県のJR東日本・只見線のケースでは、豪雪地帯の会津川口―只見間27.6kmの被災前の輸送密度は49人、年間の赤字額は約3億円(キロ当たり約1100万円)に上るが、只見線活用による観光面での経済効果が大きいと評価され、福島県の配慮により会津川口駅のある金山町は年間約1300万円、只見町は年間約1900万円の費用負担となっており、沿線自治体が出せる金額しか課されないのが通常だ。

しかし、留萌本線では、道は財政支援を放棄し、鉄道存続の場合は財政力が脆弱な沿線自治体のみで約9億円を負担するということを前提に協議が行われ、沿線首長は廃線に合意させられた。結果、廃線から1カ月を経たずして、代替交通を運行する沿岸バス留萌旭川線の存廃問題が表面化。北海道留萌地方では交通崩壊の危機を迎えている。

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