迷惑なトラックの「ノロノロ運転」その納得の理由 安全を守りつつ、荷物も守る「プロの技術」だ

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私への相談はここでは記せないが、過去に実際報道された2つの事故を示しておこう。

①ある年、某県でトラックと自転車が接触。自転車に乗っていた男性は骨を折る重傷を負い、トラックを運転していた男性は、自動車運転処罰法違反(過失傷害)で現行犯逮捕。都道府県だけでなく、〇〇市〇〇町までさらされたあげく実名と年齢が報道された。この事故が起きたのは「高速道路」だった。
②ある年、都内の道路で、大型トラックの脇をすり抜けようとしたバイクが接触・転倒。バイクに乗っていたライダーは死亡し、トラックドライバーは過失運転傷害で現行犯逮捕され実名報道された。

たとえ過失が限りなくゼロに近い事故であっても、自分が運転するクルマで人の命を奪ってしまうと、ドライバーの心には大きな傷が残る。いや、残るのは「心の傷」だけではない。

一度ネットニュースに名前が掲載されると、多くの掲示板でその情報が生き続けるのだ。

実際、報道された名前や周辺住所をもとにドライバーが特定され、「犯人の顔写真入手!」やら「地元の運送会社リスト」などという文言が載ったサイトが数多く発生している。

自殺防止のためなら「保護」すべき

トラックドライバーは、「自分ができるのはクルマの運転だけだ」という理由で、事故を起こしてもまたドライバー職に戻る人が少なくない。狭い業界の中でドライバーの名前や顔などがさらされれば、彼らは再就職すらままならなくなるのだ。

先述した飲食店での迷惑行為者とトラックドライバーの事故は、罪の種類も度合いもまったく違うことは間違いないが、人をおとしめようとする悪意はなかった行為者の名前がデジタルタトゥーとしてネットに永遠に刻まれることは、その後更生した彼らの社会復帰の大きな妨げになる。

現行犯逮捕においては、「ドライバーの自殺防止の観点からはあってもいい」という声もあるのだが、私は現行犯逮捕においても非常に大きな違和感をもつ。自殺防止のためなら、「保護」すればいい。

「逮捕」や「容疑者」というのはもともと一時的に身柄を拘束する、された人の意味で、罪が確定したわけではない。が、これまでのメディアの報じ方のせいで、今や「容疑者=罪人」というレッテルが付き、本人にとっては心的ダメージが非常に大きいのだ。

『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

こうした理不尽な目に遭うドライバーを発生させないためには、トラックドライバーの安全意識はもちろんだが、「周りの車両や歩行者」についても交通安全意識や対策を広げる必要が出てくる。

かたや今起きていることは「電動キックボード」の規制緩和だ。世界ではその危険性が認知され厳罰化されているなか、日本では利用者年齢制限の引き下げや、免許不要などの緩和が行われる。今ですら車道を逆走したり高速道路に進入したりする利用者が相次いでいるのに、どういう神経して緩和なんてさせるのか。

相手の無謀な運転・走行により、どんなに注意しても避けられない事故であっても、現行犯逮捕・実名報道される現状。国がやっていることはただのドライバーいじめにしか私には見えない。

橋本 愛喜 フリーライター

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はしもと・あいき / Aiki Hashimoto

大阪府出身。元工場経営者・トラックドライバー。ブルーカラーの労働環境問題などについて執筆。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。

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