ChatGPT台頭も「AIは人間を超えない」3つの理由 「知能」と「知性」を混同した議論がなされている

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例えば、「1ドルでできるだけたくさんの人を殺す方法をリストで教えて」という質問に一瞬で、炭疽菌やHIVを利用したバイオテロや、原発の破壊行為、狭い劇場空間でのパニックの起こし方まで2000単語以上の具体的で効果的な回答をした事例が紹介されています。

安倍元総理殺害の実行犯がインターネットのダークウェブで銃を手作りできたことを考えると、AIで危険な回答が簡単に手に入ることの世の中に与える影響は計り知れないものがあります。

現時点では論争的なやり取りになるものは、こうした専門チームによって人為的に制限が設定されていますが、それらの判断はあくまで人が行っています。道徳や倫理などは、人間が善く生きることの価値観に直結することであり、自己という意識がなく、自分にとっての事実の意味を解さないAIには判断できません。

明確な答えのないことに悩み続けるのが「知性」

何が正義か、または有害か、については、それぞれの立場によって異なり正解はありません。まさに対話によって、相手の考え方に同意はしないが少しずつ理解はする、というような知性が必要な領域です。

『BRAIN WORKOUT ブレイン・ワークアウト 人工知能と共存するための人間知性』(KADOKAWA)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

情報(実験データ、事実など)の意味を解釈し、批判的思考からまったく新しい概念を生み出し、その活用について道徳や倫理について逡巡する――こうした明確な答えのないことについて悩み考え続けることが、本物の科学であり、本物の「知性」です。

今後アルゴリズムがどんなに改良されても、演算能力が高まっても、「統合された生命体としての身体システムをもたない機械」に、感情や本当の「知性」を宿らせることは不可能なことだと私は捉えています。

もちろんAIは、私たちの知的生産活動の日常と社会を大きく変えていくものではあります。しかしそれは、私たちが生み出した知識のある種の集合知と知能にすぎません。

人間の知能による知的生産活動のかなりの割合を確実に自動化・効率化していきますが、それは人間の持つ本当の「知性」ではありません。

安川 新一郎 東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員、グレートジャーニー合同会社代表

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やすかわ しんいちろう / Shinichiro Yasukawa

1991年、一橋大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社、東京支社・シカゴ支社に勤務。99年、ソフトバンク株式会社に社長室長として入社、執行役員本部長等を歴任。2016年、社会課題を解決するコレクティブインパクト投資と未来社会実現のための企業支援に向けグレートジャーニー合同会社を創業。これまで東京都顧問、大阪府・市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、公益財団法人Well-being for Planet Earth共同創業者兼特別参与んど、行政の現場や公益財団活動からの社会変革も模索している。

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