ChatGPT台頭も「AIは人間を超えない」3つの理由 「知能」と「知性」を混同した議論がなされている
『心はこうして創られる』などの著作がある認知科学者のニック・チェイター教授は“The mind is flat”(心に深さはない)として、心の中身は「意識の流れをなす、瞬間ごとの思考や説明や感覚経験がすべて」であると主張しています。
私たちの脳は情報をその都度、脳の配線をつなぎ即興的に処理しているだけであり、われわれの事前の経験や記憶から少し先を推論し、抜けている要素を創作しながら行っています。この人間の脳に対する新しい理論と、非記号的AIの大規模言語モデルのアプローチは似ています。
大規模言語モデルでは、単語列を「入力」として、次に現れる単語を予測する言語モデリングを大規模に事前学習し、他のタスクの学習と組み合わせて展開します。それによって、どんな質問やタスクに対しても、人間の問いの「文脈」を理解して(いるかのように)滑らかに回答を返すことを可能にしています。
深い思考や論理的なルールが最初にあるという前提に基づいて思考するのではなく、大量のデータを事前学習し、さらに少しずつ瞬間瞬間に推測しながら思考を進めていくのです。
汎用人工知能の完成は近い?
脳神経科学のニューラルネットワークから発達した、事前学習と推測に基づく生成という現在のAIの大規模学習モデルと、チェイター教授の解説する「即興的に推論し創作する(私たちの)脳(HI)」の働きは、実は似ているように見えます。人類は「知能」については、自らの脳神経の仕組みに似たアプローチで人工的な開発に成功しつつあるように思えます。
この大規模言語モデルの言語生成AIの登場によって、人間の脳に置き換わる汎用人工知能の完成は近いのではという期待も再び生まれています。
汎用型人工知能の可能性が見えてくると、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリのように、人間を含めて生物はアルゴリズムにすぎないのか、という疑問が提示されます。
また人間も生物もアルゴリズムにすぎないという認識から、指数関数的に能力を高めたAIが誕生し、近い将来人間を超越し支配する、というトランスヒューマニズム(人間超越主義)の主張が出てきます。
しかし、私はAIが知能/知性の両方の側面で人間を超えるトランスヒューマンになる可能性は次の3つの理由から低いと考えています。
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