「電気代が値上げがあまりに厳しい」根本的な原因 エネルギー市場では何が起こっているのか

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周知の通り、実際にロシアからヨーロッパ向けの天然ガスのパイプラインによる供給は大幅に減少しています。ヨーロッパ諸国はロシア産のエネルギーを代替するため、エネルギーを世界中に求めなければならず、ロシアと対立関係にはない国々をも巻き込んだ、国際的な資源の獲得を繰り広げることとなり、資源価格の高騰を招くこととなりました。

ここで重要なポイントは、ロシアによるウクライナ侵攻の前にすでに世界のエネルギー価格が同時多発的に高騰していたという事実です。

先ほど述べたように、新型コロナウイルス禍からの経済活動が回復したことによって世界のエネルギー需要は高まって価格が高騰していました。そこにロシアによるウクライナ侵攻が起きてエネルギー市場はより混乱したというふたつの段階があるのです。

LNG争奪戦が世界を再び直撃する可能性も

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これが、もしロシアによるウクライナ侵攻が起きる前にエネルギー需給が逼迫しておらず、供給に余裕がある状態だったとしたらどうでしょうか。ロシアからのヨーロッパ向けの天然ガス供給が停止してもその影響は限定的となったでしょう。すべてのエネルギー価格がここまで高騰することはなかったと考えられます。

つまり、2021年からエネルギー価格が高騰しているところに、ロシア産のエネルギー供給に不安が起きたことでさらに事態が切迫したという構図なのです。

なお、LNGの供給不安は2022年で終わったと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、各国の需要はこれからも増えていく可能性が高いのが実情です。2025年までの世界のLNG市場は供給が不足気味になることが予想されており、状況によっては、LNG争奪戦が世界を再び直撃する可能性も十分にあります。

小山 堅 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員

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こやま けん / Ken Koyama

1959年、長野県生まれ。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。 研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。雑誌やテレビなどのメディアなどにも多数出演する。

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