ミャンマー軍事政権に曖昧な姿勢を続ける日本 人権活動家が語る現地の危機と日本への要請

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――日本政府はどのような姿勢を取るべきだと思いますか。

日本政府は軍事クーデターへの非難声明を出す一方で、軍事政権への政府開発援助(ODA)を継続している。軍事クーデター前年の総選挙で勝利した民主派と軍事政権のどちらを支持しているのかもはっきりしない。ミャンマーの国民はこうした日本の曖昧な姿勢に困惑している。日本政府にはミャンマー民主化のために道義的・倫理的役割を発揮するように求めたい。

日本は国連安全保障理事会の非常任理事国でもある。2022年12月に採択された安保理決議を踏まえ、ジェノサイド、戦争犯罪、そして人道に対する罪について国軍の責任を追及する具体的な措置を取るべきだ。

また、次のようなことができるはずだ。すなわち、(1)国軍関係者や国軍系企業をターゲットにした経済制裁の実施、(2)NUGとの対話、(3)軍事政権が強行しようとしている総選挙を支持しないと表明すること、(4)ミャンマー国軍の支配下で実施されているすべてのODAを直ちに打ち切ること、(5)在日ミャンマー人の保護、などだ。

今般の入管法改正により強制送還が増える事態ともなれば、在日ミャンマー人は生命の危機に直結する。国外に居住していたというだけで逮捕・投獄されたミャンマー人を私は知っている。在日ミャンマー人の中には民主化支援の活動をしている人も多く、帰国すれば必ず尋問を受けることになる。

弱体化する国軍、日本はNUGと対話を

――日本政府は民主派勢力が結成したNUGとどのように関係を持つべきでしょうか。

日本がNUGとの公式の連絡手段を持っていないのは戦略的な誤りだ。(欧米諸国のみならず)中国やインドネシア、マレーシア、韓国もNUGと連絡を取っている。日本がミャンマーにきちんと関与するためには、NUGときちんと対話すべき。日本政府は軍事政権を長引かせたいのか、あるいは文民統制に戻ってほしいと思っているのか、はっきりしてほしい。

――民主派勢力の抵抗に遭い、国軍も弱体化しているとも指摘されています。

10年前、国軍は40万人を擁していると言われていた。しかし(西側の)軍事アナリストの推計では、クーデター前に実際の人数は30万人もいないと指摘されていた。クーデター後はさらに2万~3万人減っていると見られる。新たな兵士の募集もできていない。軍隊から離脱すると家族にも危害が及びかねないが、2万人以上の兵士がこれまでに国軍から脱走している。

民主派勢力や少数民族武装組織との戦いが長引く中、国軍は広大な国土に薄く広く展開せざるをえず、あらゆる場所で市民の抵抗に遭っている。国軍の兵士は疲れ果て、追い込まれている。国軍は国土の20%以下しか支配下に置いていない。民主派勢力に勝機はある。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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