「3万2000円スニーカーが秒速完売!」の裏側

オシャレ男子がニューバランスの虜に

もともとファンだった男性が家庭を持ち、奥さんや子供にも履かせるようになり、最近ではニューバランスのスニーカーがファッションアイテムの一つとして女性からも人気になってきたことが、その戦略の背景にある。パパが一人で熱狂する、男性の薀蓄(うんちく)文脈で語られるスニーカーから、ファミリーでも楽しめる、ファッションとしても楽しめるスニーカーへ…。今回の「M1300」発売の背後には、そんな戦略があった。

とはいえ、どんなに「ファミリーで履いてもらいたい!」と提案したところで、実際にこの人気モデルを手にすることができるのは、運よく抽選に当たったごく一部の人だけ。そもそも品質にこだわっているので、大量生産ができない。だからこそ、すぐに完売してしまうわけだが、どんなに人気になったところで、数量限定のモデルが完売しただけでは、ビッグビジネスにはなりえないという悩ましさもある。

「買えなかった人、買わなかった人にも、これだけ熱狂されるスニーカーがあることと、熱狂される背後にあるストーリーを伝えることが、マーケティング上の重要戦略と位置づけています」と鈴木氏は話す。

価格競争に巻き込まれるブランド

1日の生産数、36足の小企業が世界のブランドに ● ニューバランスは1906年にボストンで誕生。もともとはアーチサポートインソールや矯正靴の製造メーカーで社名も履いた人に「新しい」「バランス」をもたらすこと、に由来する。1972年までは従業員数6名、日産36足の生産規模の小企業だったが、現会長のジェームス・S・デービスが引き継いでから、飛躍的な成長を遂げた

スニーカーに限らず、いま商品のコモディティ化(同質化)が究極まで進んでいるといわれる。そのブランドの背後にあるストーリーや価値を深く体感、体験できる機会が提供できなければ、そのブランドならではの“付加価値”もマーケターの頭の中にあるだけで、消費者には伝わらず、店頭での価格競争に巻き込まれてしまうだけだ。

一部の人しか味わえない、濃厚な体験価値を、いかに広げていけるかは、多くのマーケターの課題。ここ最近、食品や飲料、化粧品などのマスプロダクツメーカーが期間限定のポップアップストアをオープンし、ブランドの世界を体感してもらう活動に力を入れているが、来場した人には価値を体感してもらえたところで、日本全体を相手にする企業が、数百、数千人の消費者にリーチをしたところで、たかがしれている。一部の人の体験をいかに、広くリーチさせるかが次なるマーケティング課題になっている。

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