ロンバード街 金融市場の解説 ウォルター・バジョット著/久保恵美子訳 ~中銀制度の確立以前に最後の貸し手を論じる
金融恐慌の際には、十分な担保さえあれば、通常より大幅に高い金利で、相手が望むだけ思い切って貸し出せ--。恐慌時の中央銀行のあり方は、バジョット・ルールとして知られる。その有名な政策は、1870年代当時の英国の金融市場であるロンバード街の機能に言及した本書で論じられている。今回、1873年に出版された古典の新訳が70年ぶりに出版された。
当時の英国では、資金を必要とする経済主体は、国内外を問わず、それなりの金利さえ払えば資金調達は可能だった。資金余剰主体から資金不足主体への金融仲介が十分発達していたことが、生き生きと描かれる。現代でも同じだが、他人の資本を預かって貸し付けを行う銀行制度は取り付け問題を内包する。この問題へ対処すべく、最後の貸し手としてイングランド銀行のあるべき姿が論じられる。
それにしても、中央銀行制度の確立前に、最後の貸し手機能が論じられている点には驚かされる。バジョットは経済や社会制度は外から与えられるものではなく、社会構成員の相互依存の中で、内生的に決まるという視点を持っていた。ゲーム論の均衡として経済制度やシステムが決定されるという、現代の経済理論と同じ立場であることも驚きである。
現代の中央銀行は経済危機に対し、大規模な流動性の供給で対応している。バジョットの教えを学び、最悪の事態を回避しているとも言える。ただ、バジョットは貸し付けを必要としない人からの申し込み殺到を防ぐため、高金利で貸し付けよと論じた。しかし、現代はゼロ金利で流動性が供給される。それが世界的なバブルの連鎖を引き起こしているのではないか。当時は金本位制で事情は異なるが、われわれはバジョットの教えをもう一度、検討すべきだろう。
Walter Bagehot
1826~77年。英国のジャーナリスト・経済学者・思想家。家業の銀行業に従事しながら、エドマンド・バークの影響を受け、保守主義者として幅広い評論活動を行った。『エコノミスト』創設者の女婿で、35歳から死去の51歳まで編集長を務めた。
日経BP社 2520円 395ページ
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