日本共産党が中国共産党と和解するのはなぜか 岸田文雄政権の防衛費拡大への危機感が後押し

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両党関係に詳しい横浜市立大学の矢吹晋名誉教授によると、志位は2017年に秘密訪中し習近平と会談した。その目的は関係修復にあったのだが会談は決裂し、再度の断絶に導く訪問となった。

志位の大使館訪問に話を戻す。会談した両者は、クアラルンプール会議について「ページはめくられた。今後はこの問題を互いに触れない」ことで合意した。志位は呉に「さまざまな見解の違いがあり、その立場に変わりはないが提言の中にはすべて入れなかった」と説明しており、決して全面和解ではない。

両者が和解に向け歩み始めたのは、岸田の中国敵視政策に基づく軍拡路線に対し、日本世論の支持が予想以上に高いことにある。朝日新聞の読者層ですら「防衛力をもっと強化すべきか」の質問に賛成が6割を超えた。岸田政権支持率も上昇機運にある情勢に、両党が危機感を共有したことが接近の背中を押したことになる。

軍拡批判と中国対立の不整合

日共側の事情をまとめれば、①岸田政権の大軍拡の前提は中国脅威論にあり、大軍拡を批判するうえで中国批判は整合性がとれない、②機関紙読者の減少、各種選挙での退潮は止まらず、中国批判によって党勢は回復しない、③党内外から対中政策見直しを求める突き上げ、などが挙げられる。

中国側は関係断絶を決定した志位自身が和解の申し入れに来たことを奇貨とし、和解を受け入れたのは間違いない。中国共産党は、日共を含め、反軍拡を掲げる市民団体との連携を強めており、幅広い統一戦線工作の構築に乗り出した。

今回は和解に向けた第一歩にすぎない。ただこれまでの中国批判は、次第に影を潜めていくはずだ。当面は両党とも様子を見ながら、今後の展開を見定める方針のようだ。(一部、敬称略)

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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