広島サミットの影で起きた中東「晴天の霹靂」 イランとサウジが和解、アサド大統領を歓迎

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次に、西側諸国が石油、天然ガスの多くを湾岸諸国を中心とした中東に依存しているため、産油国の世界経済に与える影響力は維持されている。しかし、アメリカ主導で作られていた石油の安定供給を担保する枠組みはすでに崩壊しつつある。

原油価格維持のための産油量の調整などはますます産油国主導で決定される可能性が高まり、国際経済にとっては不安定要因になっていく。

また中東地域の国々は、いわゆるグローバルサウス(新興国)とは異なる存在でもある。多くの国が王政であったり独裁国家であったりし、同時に自国の利益実現を最優先するリアリスティックな国だ。歴史的にもアラブ諸国は西欧文化とは距離を置き、時に対峙しながらアイデンティティーを維持してきた。民主主義とは縁遠い地域でもある。

中東は独立した集合体として、今後ますます独自の政治体制で自律性の高い外交や経済政策を展開するだろう。そして今、いくつかの産油国が脱石油経済を目指し国内改革を進めている。

「治外法権」化する中東

アメリカの影響力がなくなったことで、中東と欧米諸国との関係がどう変化していくのか。

日本政府の高官は「アメリカが手を引いたことで中東はある種の”治外法権”的存在になり、国際秩序とは無関係に独自の空間を作っていくことになりかねない。その時、国際社会全体がどう変化するのか、まったく予想がつかない」と語ってくれた。

広島でのG7サミットで、ロシアや中国に対する参加国の結束は確認された。しかし、同時に2つもの別のサミットが開催され、それぞれが同じように結束を確認している。

G7はもはや多国間首脳会議の代表的存在ではなく、多くの中の一つになってきた。そして世界の政治や経済のブロック化が顕在化してきた。3つのサミットの同時開催は世界秩序の転換を予感させるものである。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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