スバル、国内でEV40万台生産体制を構築する勝算 税額控除対象となるアメリカ現地生産は示さず

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ただ、仮にEVで「らしさ」を打ち出せたとしても、気がかりなことがある。悪路走破性を売りにするスバル車は、アメリカの中でも特に寒冷地で高い人気を誇る。だが、EVの電池は低温に弱いともいわれ、寒冷地との相性が心配されている。

EVの販売が低調ならば、ガソリン車の販売にも影響しかねない。

カリフォルニア州など複数の州は、2026年から始める新規制で各自動車メーカーに対し、新車販売の一定割合以上をEVなどの環境対応車にすることを求めている。この比率は段階的に引き上げられ、2035年には100%になる。

しばらくは移行期間があり、たとえば2026年は35%といった具合だ。この比率を下回れば、罰金が科せられる。つまり猶予期間であってもEVの売れ行きが悪ければ、比率をクリアするためにガソリン車の販売をセーブしなければならない事態にもなりかねない。

国内生産の空洞化にどう対応するか

先行きが不透明で流動的なアメリカのEV普及のスピードや、IRAの行方次第では、北米での生産の必要性がこれから急速に高まるシナリオもありうる。

これについて中村社長は「アメリカでの生産を急がなければいけないようであれば、柔軟に対応する」「マザー工場の日本でしっかり立ち上げてノウハウを蓄積さえできれば、アメリカに(問題なく)移植できる」と話す。

だが、そこには低くはないハードルがあるように見える。

現状、スバルの生産台数の8割は群馬県内で、うち5割をアメリカに輸出している。アメリカでの現地生産の割合は5割未満で、生産体制は日本に偏っている。アメリカでのEV生産を進めると、国内工場の稼働率低下という問題が浮上しかねない。スバルだけではなく、群馬県に集中するサプライヤー、地元経済にさまざまな影響が出る懸念がある。

アメリカでの生産体制構築も一筋縄ではいかない。現地ではEVや電池工場の建設ラッシュで熟練労働者は奪い合いで、電池の確保の道筋をつける必要もある。アメリカでEVを生産するハードルは日本よりはるかに高い。そこまでしてアメリカでEV生産体制を立ち上げたところで、本当にEVが右肩上がりで普及するのか――スバルには、そんな疑念もあるのかもしれない。

5月11日に発表した2023年3月期決算は、円安の追い風もあって営業利益が低水準だった前期からは約3倍の2674億円となった。2024年3月期はさらに12%増の3000億円を見込んでいる。9月末まで2200万株、400億円を上限とする自己株買いも発表した。

SUBARUが現在販売するEVは、トヨタ自動車と共同開発した「ソルテラ」の1車種のみ(撮影:尾形文繁)

これが好感されてか、株価は決算を発表した11日13時から足元までで約5%上昇しているが、それでもPBRは0.8倍と低迷する。IRAの影響を含む先行きへの不安が、評価を割り引く一因になっているとみられる。

はたして市場の懸念を跳ね返し、来る本格的なEV時代でもアメリカで成功できるのか。それはすなわち、「アメリカ一本足打法」であるスバルの社運を賭ける勝負になる。

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奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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