スバル、国内でEV40万台生産体制を構築する勝算 税額控除対象となるアメリカ現地生産は示さず

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では、スバルには一体、どのような勝算があるのか。

実は、IRAには1つの回避策がある。リース販売の活用だ。

トラックやバスなどの商用車はアメリカ域外生産でも税額控除の対象となる。この商用車にはリース販売やレンタカーも含まれる。このため、たとえば韓国の現代自動車グループは、IRAによる影響緩和策としてリース販売を積極活用する方針を示している。

同日の決算会見で中村知美社長は、「当然そういう(リース販売の)プログラムを用意していきたい。実際、ソルテラでも(すでに)そういう形で展開している」と語った。

また、そもそもスバルは、現行レベルの税額控除が長く続くと見ていないのかもしれない。

東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、「スバルはアメリカの事情に精通しており、十分に調査も分析もしているだろう」と前置きしたうえで、「アメリカのような車社会において、1台あたり7500ドルの税額控除がこの先も延々と残ることは考えにくいと見ているのではないか」と読む。手厚い税額控除を続ければ、EVの普及に伴い税収面での打撃が大きくなるからだ。

リース拡大には副作用も

しかし、これらを勘案しても、懸念がすべて解消されるわけではない。

まず、リース販売の拡大は副作用がある。一般に3年程度のリース期間を終えると車両は中古車市場に流れる。リース販売を拡大すれば、中古車価格に押し下げ圧力が強まる。それは回り回って、新車の競争力を引き下げることになる。

これまでスバルはブランド力の向上を重視して、過度にシェアを追ってはこなかった。結果的に販売店へ支払う販売奨励金(インセンティブ)は業界平均を大きく下回っており、小規模メーカーながら高い利益率をたたき出す原動力になってきた。

こうした強みを損なわないためには、リースの活用は限定的とならざるを得ない。また、徐々に税額控除額が縮小されていくとしても、いきなりゼロになるわけではない。EVの普及支援策がある以上、「恩恵の対象外」のままでは不利な事実は変わらない。

中村社長は、「税額控除だけで車を選ぶのか。スバルらしさをしっかり担保し、いまスバルにお乗りいただいているお客さまのガレージに(EVになっても)1台入っていく。そういうところを見据えてやっていきたい」と述べ、車の魅力で勝負したい考えを示す。

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