崖っぷち楽天モバイル「最強プラン」の破壊力 最高コスパとカバー率上昇の「鬼手」で大勝負

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さて、2月に掲載した記事では「直近の数字を見た限りは楽天モバイルの状況はそれほど悪くはない」と言う話をしましたが、5月12日に発表があった今年の第1四半期の状況はどうでしょうか? 数字をアップデートしてみます。

まずグループ全体の第1四半期の純損失は826億円の赤字と、前年同期からは93億円赤字幅が縮小していますが、相変わらず大きな金額です。原因は当然ながらモバイル事業の赤字にあります。セグメント損失は1027億円ですが、これは前年同期と比べて296億円改善しています。

楽天モバイルの加入者数は昨年12月末に446万回線だったところから、3月末に454万回線と微増しています。ARPU(一ヶ月あたりの平均利用額)は1810円から1959円と149円増えています。

結局のところ傾向としてはいい数字ですが、「いつになったら営業黒字化できるのか?」を考えると、このペースではきついというのが実情でしょう。ですから再三申し上げるとおり「風が吹く」ことが重要で、そのためのKDDIとの提携であり、そのための「Rakuten最強プラン」なのです。

起業家・三木谷氏に問われる手腕

商品性能的には十分な競争力があり、価格的にはコスパ最強であるのは事実です。経営戦略的には設備投資でのキャッシュを温存しながら、今回楽天は「提携で先にエリアカバー率を上げてしまうという」という鬼手を打ってきました。

そうなると「風が吹くかどうか」は、あとはマーケティングの出番でしょう。ソフトバンクが「白いお父さん犬」で風を吹かせた頃とは状況が違います。

お試しキャンペーンを復活させるか、SNSで拡散を仕掛けるか、業績が悪化しているディズニーあたりと組んでギガ使い放題のメリットを周知させるか、何かを仕掛けていくことでごっそりと山が動くことになれば、そこで楽天の経営状況は一気に改善するかもしれません。

最後になりますが、日本は起業家の成功例が少ない国です。ソニーとホンダに始まって、最近では京セラ、ユニクロ、日本電産、キーエンスと成功例が増えているものの、ダイエーの中内功氏、アスキーの西和彦氏など失敗して経済の表舞台から消え去る経営者も少なくありません。そして失敗した人間の再挑戦は極めて難しい国でもあります。

その状況が変わるかどうかは、起業家に成長期待するという日本という国の未来の重要事です。楽天モバイルに風が吹くのか? 楽天グループの業績は底を打つのか? そして三木谷浩史氏は第一線にとどまれるのか? 高い関心を持って見据えていきたいと思います。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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