ヤマト6年ぶり値上げとドライバー改革の苦悶 ドライバー分業化へ大転換、3期ぶり増益期す

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今期の宅急便の取扱個数は前期比1.1%増の19億4740万個と微増だが、値上げを浸透させることで、単価は同33円増の736円を見込む。

同業のSGホールディングスは2013年度以降、収益重視で法人顧客との交渉を進めてきた経緯もあり、今期の平均単価は同5円増の648円。「物量が減少している中、価格改定には逆風の環境だと認識している」(川中子勝浩取締役)。SGの値上げ幅は約8%で、個人向けの比率も異なるなど単純比較はできないが、ヤマトはかなり挑戦的な引き上げ幅と言える。

値上げ交渉について、栗栖副社長は「交渉そのものはどんどん進んでいる。4月から順調にスタートが切れている」と説明する。計画達成に向けて、着実な値上げの浸透は1年を通じた最重要テーマになりそうだ。

2つ目が、構造改革効果による既存配送網の効率化だ。前期は営業所を3501拠点から3331拠点に集約し、拠点ごとに作業の適正化を図った。ターミナルも営業所と統合し、輸送・作業コストの削減を進めている。

そもそもヤマトは前期中に構造改革効果を発現させる目算だったが、進捗が遅れて連続減益に終わった経緯がある。今期は約2800拠点まで営業所を集約する予定。計画通りに進め、費用を圧縮することも肝心だ。

ドライバーの負担軽減が課題

決算発表のタイミングに合わせて、気になる方針転換も明らかにされた。全国約6万人のヤマトのセールスドライバーの役割の刷新だ。従来は「集荷」「配達」「営業」を兼ねるのが特徴だったが、配達専門、集荷専門など役割を細分化する。2月からテストを開始しており、2024年1月から東名阪の都市部等で本格展開する構えだ。

背景には都市部で荷物量が増加していることに加え、複数の業務を課されたドライバーの負担が増していたこと、人材育成に時間を要するといった事情がある。

今回の方針転換は、両刃の剣になりかねない。従来はセールスドライバーが営業を含めた、付加価値の高い仕事に専念する方針だった。配達中心のEC荷物は外部業者に委託するなど、配送網を整えてきた。セールスドライバーの分業化は、本来の強みを失う可能性もはらんでいる。

ヤマトは現在、地場の法人顧客の開拓に力を入れるが、ここにもセールスドライバーは密接に関わっている。営業力が弱まれば、顧客開拓が一段と鈍化するおそれもある。ヤマトも当然、影響は認識しているはずだが、ドライバーの負担軽減と営業強化の両立という難しい舵取りが求められている。

足元では荷動きの鈍さもみられ、エネルギーコストの上昇も響くなど経営環境は決して良好ではない。2期連続減益から立ち直り、再成長の道筋を示せるか。今期は構造改革の成果が問われる、正念場の1年となる。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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