のほほんと上がっている日本株の先行きが心配だ アメリカの景気や企業収益は想定通りに悪化中

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こう書いていくと、読者の方の中には、「馬渕さんはとんでもない誤りを語っている。5日発表の4月分の雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月比で25.3万人も増えた。これは市場の事前予想(18.0万人増)を7.3万人も上回ったではないか。だから『景気は堅調だ』との見解が市場に広がり、アメリカの主要な株価指数は週末に大きく持ち直したのだ」などと、憤る方がおられるかもしれない。

しかし、筆者はまったくそうは思わない。実は、その雇用者数の統計からこそ「雇用情勢は弱い」と判断すべきだ。

4月分の雇用統計の発表の一方で、すでに発表されていた3月分の雇用者数は前月比23.6万人増から同16.5万人増へと、7.1万人分も下方修正された。それだけで4月分の「事前予想より上回った分(7.3万人)」を、ほぼ完全に打ち消している。

それだけではない。さらにさかのぼって、2月分の前月比も32.6万人増から24.8万人増に、7.8万人分も下方修正された。つまり、4月分の雇用者数の水準は、想定よりもかなり弱かったといえる。

なぜ前週末のアメリカ株は上昇したのか

では、なぜ5日の金曜日にアメリカの主要な株価指数は前日比で上昇したのだろうか。

このところの同国の株式市場は、銀行の経営不安に振り回されている。経営危機が取り沙汰されていたファースト・リパブリック・バンクについては、5月1日にFDIC(連邦預金保険公社)が正式に同行の破綻を表明すると同時に、JPモルガン・チェースによる同行の買収が決定された。

「破綻したが、どう処理するかはこれから決めます」といったことではなく、水面下でFDICとJPモルガンが協議し、迅速に収拾策を打ち出したという点は評価できる。

ところが3日には、複数のメディアが中堅銀行であるパックウエスト・バンコープについて「身売りなどを検討している」と報じ、銀行全般の経営不安が再燃した(同行は経営不安を否定)。一連の銀行の経営不安については「リーマンショックの再来だ」などと騒ぐ向きもいるようだ。

しかし、当時は根強い「住宅神話」があった。「信用リスクが高い(返済できない可能性が高い)借り手に住宅ローンを貸し付けても、値上がりし続ける住宅を担保にとっていれば大丈夫」だとして、幅広い銀行が深入りした。

その結果、住宅価格の反落(担保価値の下落)で不良債権を抱えたという展開だった。また、そうした住宅ローンは証券化されて、幅広い投資家が保有し、損失を被った。今回は、金融界全体に厳しい事態が再来するような情勢にはない。

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