「完璧な家事」をこなした母が病を得て気付いた事 暮らしが質素であったら、もっと楽に暮らせた

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つまりは、問題は家事そのものじゃなくて、肥大化したわれらが欲望なんじゃないだろうか。

もしもわれらの暮らしがもっと質素なものであったなら。必要最低限のものを持ち、必要最低限のものを食べ、必要最低限のスペースで暮らしていたならば、家事はもっとずっと単純で楽なものだったに違いない。毎日同じ基本的な料理を作り、毎日最低限のものを洗い、毎日小さなスペースをホウキでさっと掃くだけで、家の中がちゃんと整うような質素な暮らしをしていたならば、母はもっと長い間、それを無理なくこなし、自分の人生を自分の力で生きているのだ、やるべきことをやっているのだという誇りと充実感を持って暮らすことができたんじゃないだろうか。

「人生100年時代」の大きな宿題

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そして、これは認知症という特定の病気に限った問題ではないのだと思う。われらは誰もがいつかは老いて、それまでできていたことが1つひとつできなくなっていくのだ。そんな中で、悲しみや情けなさに押しつぶされることなく、前を向いて最後までどうやって明るく元気に生きていくのかを、懸命に考えなければならないのが「人生100年時代」の大きな宿題ではないか。

そう、母の問題は私の問題でもあった。母は私の老いの先輩であり先生でもあったのだ。私はいったいどうやって老いていけばいいのだろう?

私は自分のこれからの暮らしについて、家事について、改めて考えることになった。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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