PBR1倍割れ多発、東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標

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日本は、PBR1倍割れの企業の数が際立って多い。「多くの機関投資家の投資対象となるのにふさわしい」とされているプライム市場においても、上場する企業のおよそ半数が1倍割れとなっており、テコ入れは急務だ。比較対象として挙げられたアメリカでは、PBR1倍を割っている企業は2割程度だという。

東証を運営するJPX(日本取引所グループ)の清田瞭CEO(最高経営責任者、当時)は3月30日の記者会見で「1倍割れの銘柄が世界的に見ても飛び抜けて多い。直していかなければいけない。資本のコストを意識したリターンを上げる経営に取り組めば十分可能だという企業はたくさんあると思う」と語った。こうした背景が3月末の要請につながったのだ。

それでも、東証はPBR1倍の改善のみを強調はしなかった。それによって小手先のPBR向上策が蔓延することを懸念したからだ。

PBRは、分母である純資産を自社株買いや増配で減らすことで向上させることができる。ただ、これでは本質的な企業価値向上とは言えない。本来は、その企業自身が優れた業績を上げ、株価を向上させる必要があるのだ。東証としては各社が安易に自社株買いなどに走るといった事態は避けたかった。

その結果、PBRのみを明確に示すこともなく、その手法も縛らないという今回の要請の内容に至ったわけだ。具体的な経営指標によって線引きをしなかったことで、企業にとっては「何をすればいいかわからない」(上場企業幹部)要請になった。目指すべき「資本コストや株価を意識した経営」を達成できている企業が何社あるのかも東証は示していない。このあいまいさが、今回の要請の難しさだろう。

PBRにフォーカスした新指数

要請ではあいまいな表現を使うことになったが、その裏でPBRにフォーカスした取り組みも出てきた。JPX総研が新たに発表した「JPXプライム150指数」だ。

この指数に採用されるには、プライム上場企業のうち時価総額上位500位に入っていなければならない。その上で、推定エクイティスプレッド(ROE-株主資本コスト)上位75社と、PBR上位75社が選ばれる。こちらは明確にPBRを基準に採用した。

5月末までに詳細な選定方法を公表し、7月3日から算出することになっている。この指数が投資信託などに採用されれば、選ばれた銘柄にとっては株価上昇のチャンスになる。指数作成を担ったJPX総研の三浦崇宏インデックスビジネス部長は「指数に選ばれるために上場企業には経営努力をしてもらい、市場全体の底上げになるようにしたい」と話す。

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