NTT、異例タッグに賭けた「日本勢復権」への道筋 KDDI、楽天とも提携、新技術で「6G」での覇権狙う

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IOWN構想には日本政府も前向きだ。

4月25日の総会に寄せたビデオメッセージで、岸田文雄首相は「IOWNは、世界共通の(データトラフィック増大への対応などの)課題を解決するイノベーションのカギになり得るものであり、日本政府としてしっかりサポートしていく」と力を込めた。

IOWNグローバルフォーラムの年次総会会場
フォーラムには国内外から118社が参画する。写真は4月25日の年次総会の様子(記者撮影)

日本勢がIOWN、ひいては6Gでの戦いにここまで前のめりになる背景には、「5G」の市場で日本の通信産業が存在感をほとんど発揮できていない実情がある。

ドイツの特許データベース会社、IPリティックスの2022年調査によると、5G特許において、技術力を推し量る指標である標準必須特許の宣言数が最も多いのは、中国のファーウェイだった。2位はアメリカのクアルコム、3位、4位はいずれも韓国のサムスンとLGエレクトロニクス、5位、6位は北欧のノキア、エリクソンと続く。日本企業で最多は9位のシャープ、次は10位のNTTドコモだった。

国別のシェアでも、トップは中国勢の26.79%。韓国勢(25.94%)、アメリカ勢(17.75%)がそれに続き、日本勢は8.52%にとどまっている。

日本国内では、そもそも5Gの特徴である低遅延・多数同時接続などの高い通信品質を最大限に発揮できる環境がいまだ限られている。その裏返しとして、5Gならではのサービス開発も遅遅として進んでいない。

6Gの世界に早く持っていきたい

NTTは5Gでの敗戦を踏まえ、その先の6Gに照準を定めて、2019年からIOWN構想を声高に提唱し始めた。

もともとNTTは、1960年代から光の研究を手がけてきた。光技術を通信に活かすことで、電力消費の抑制に加えて、遅延を格段に減らすことができる。こうしたメリットを早い段階から訴求して、NTTが強みを持つ領域を、次の通信覇権をめぐる競争の要に据えようという算段だ。

一方、KDDIをはじめとした競合キャリアはなぜIOWNに参加したのか。あるキャリア幹部は「いま通信業界で進んでいる、『競争から協調へ』の大きな流れを象徴する出来事だ」と指摘する。

こうした動きは決してIOWN特有のものではない。例えば、通信基地局の設備を共有化する「通信インフラシェアリング」も足元では普及しつつあり、キャリア間で提携するケースは増えてきている。多様なサービスで独自の経済圏を構築する「非通信」領域へと主戦場がシフトする中、設備投資の効率化などの狙いから協調の動きが強まっているのだ。

NTTは近年、年間4000億円規模の研究開発費(サービス開発に関わる設備投資・費用も含む)を投じて、基礎から応用に至るまで幅広い研究活動を行っている。国内の通信業界では最大規模であり、「5G敗戦国」の日本勢として、こうしたNTTの技術力を弾みに世界の競合企業に対して一歩リードしようという魂胆が垣間見える。

IOWNグローバルフォーラムの座長を務めるNTTの川添雄彦副社長は「NTTを含めた日本勢は、5Gとはまったく違う6Gの世界に早く持っていきたい。これが(市場シェアの少ないNTTなど)チャレンジャー(挑戦者)の論理だ」と語る。

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