生みの親に聞く「AT1債」はなぜ無価値になるのか クレディ・スイスでの無価値化は例外ではない

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クレディ・スイスのロゴ
今回の事態はスイスに限った話なのか(写真・Bloomberg)
3月に欧米で相次いだ銀行危機でにわかに注目を集めたのが「AT1債」だ。
経営不安が高まったスイスの金融大手クレディ・スイスを国内同業のUBSが買収する際、スイス当局はAT1債を無価値にすると決めた。AT1債は日本でも販売されており、損失を被った人たちの存在が徐々に明らかになってきた。
一方、クレディ・スイスの株式は、買収で価値が大幅に下がったもののゼロにはなっていない。会社が潰れる時に残った資産から支払われる順番としては、株式より債券のほうが先のはず。
それなのに、なぜ? AT1債とはいったい何?リーマンショック後の金融規制で生まれたこの耳慣れぬ債券の本質とはーー。
2008年のリーマン・ショック後、AT1債をはじめとする国際的な金融規制の議論を担い、AT1債の“生みの親”ともいえる秀島弘高氏に聞いた。

 

――AT1債とは、どんなものですか。

いざという時には、返さなくていい債券です。破綻したら返さないことにできる債券(劣後債)もありますが、AT1債とは、破綻処理に入る前、いわば銀行がまだ生きている状態で返さないことにできるものです。

破綻処理に入った段階では通常、株主の取り分はゼロになっています。でも、AT1債は、株主の取り分がプラスの段階で返さないことにできます。そんな仕組みの債券ですから、最初から株式と順番が入れ替わることはわかっているはずなんです。

株式転換をして順番が入れ替わらないようにするタイプのAT1債もあります。

株式と順番が入れ替わるのは仕組みどおり

――どうして、そのような債券があるのですか。

インタビューに答える秀島弘高さん
秀島弘高(ひでしま ひろたか)/農林中央金庫エグゼクティブ・アドバイザー。1989年日本銀行入行。32年間の勤務のうち15年間、バーゼル銀行監督委員会の仕事にさまざまな立場で携わった。2008年11月〜2012年9月に同委員会の自己資本定義部会、2010年8月〜2012年9月にはバーゼル委員会メンバーとなり、マクロプルーデンス部会の共同議長も兼務した。2021年より現職。著書に『バーゼル委員会の舞台裏』(記者撮影)

金融規制の目的は、銀行経営になんらかのストレスがかかって、資産(金融商品や貸出債権)に最大の損失が発生したとしても、残る資産でちゃんと大事な負債を返せる状態を保つことです。そのために、自己資本(返さなくていい資金)を一定比率以上、持つように求めています。

株式はもともと返さなくてもいいものですから、自己資本です。AT1債のように、返さなくてもいいことにできる負債を持っておくと、いざというとき負債を減らせば、預金をはじめ、金融機関の大事な負債は守られるようになります。

各国の金融当局にとって、金融危機では対応が後手後手に回るというのが過去の危機の苦い経験です。手遅れになってから、ようやく手が打てる。そのときにはもう金融機関の中に資産が残っておらず、買い手もつきません。負債を返すのに税金を使う羽目になってしまう。

そのため、資産内容が悪化し始めたら早い段階で介入できるようにしたいというのが当局の悲願でした。

クレディ・スイスのケースは、AT1債の仕組みのとおりになったのだと思います。AT1債の分、負債が減ったからこそ、UBSが買う気になった面もあるのでしょう。

だから今回、AT1債が株式より先に無価値となったことに、これほど抵抗感があるのかと驚きました。私は「AT1債はやっぱり役に立つんだな」と思ったのですが。

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