生みの親に聞く「AT1債」はなぜ無価値になるのか クレディ・スイスでの無価値化は例外ではない
――AT1債とは、どんなものですか。
いざという時には、返さなくていい債券です。破綻したら返さないことにできる債券(劣後債)もありますが、AT1債とは、破綻処理に入る前、いわば銀行がまだ生きている状態で返さないことにできるものです。
破綻処理に入った段階では通常、株主の取り分はゼロになっています。でも、AT1債は、株主の取り分がプラスの段階で返さないことにできます。そんな仕組みの債券ですから、最初から株式と順番が入れ替わることはわかっているはずなんです。
株式転換をして順番が入れ替わらないようにするタイプのAT1債もあります。
株式と順番が入れ替わるのは仕組みどおり
――どうして、そのような債券があるのですか。
金融規制の目的は、銀行経営になんらかのストレスがかかって、資産(金融商品や貸出債権)に最大の損失が発生したとしても、残る資産でちゃんと大事な負債を返せる状態を保つことです。そのために、自己資本(返さなくていい資金)を一定比率以上、持つように求めています。
株式はもともと返さなくてもいいものですから、自己資本です。AT1債のように、返さなくてもいいことにできる負債を持っておくと、いざというとき負債を減らせば、預金をはじめ、金融機関の大事な負債は守られるようになります。
各国の金融当局にとって、金融危機では対応が後手後手に回るというのが過去の危機の苦い経験です。手遅れになってから、ようやく手が打てる。そのときにはもう金融機関の中に資産が残っておらず、買い手もつきません。負債を返すのに税金を使う羽目になってしまう。
そのため、資産内容が悪化し始めたら早い段階で介入できるようにしたいというのが当局の悲願でした。
クレディ・スイスのケースは、AT1債の仕組みのとおりになったのだと思います。AT1債の分、負債が減ったからこそ、UBSが買う気になった面もあるのでしょう。
だから今回、AT1債が株式より先に無価値となったことに、これほど抵抗感があるのかと驚きました。私は「AT1債はやっぱり役に立つんだな」と思ったのですが。
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