生みの親に聞く「AT1債」はなぜ無価値になるのか クレディ・スイスでの無価値化は例外ではない

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――何か起こらないと市場は調整できないのですね。

市場は放っておくと楽観に行きすぎたり悲観に行きすぎたりする傾向がありますよね。時々現実に引き戻すことは必要です。

――「市場は行きすぎる」とよく言われますが、何か起きた場合に振れ幅が大きいことを指すのだと思っていました。平時にも行きすぎるということですか。

何か起きた時に行きすぎるのは、その手前で反対方向に行きすぎていたから、というのはあると思います。日本のバブルにしても、ずっと楽観に行きすぎていたから、バブル崩壊も行きすぎた。

楽観的になりすぎないように、悪いことは時々起きたほうがいいのです。今回のクレディ・スイスの救済合併とAT1債の無価値化については、スイス経済も混乱していませんし、全体としてみればよかったと言えるのではないかと思っています。

――でも、利回りが上がれば、銀行はAT1債を発行しにくくなりそうです。

利回りが高すぎるのなら、発行しなければいいのです。AT1債は発行しなければならないものではありません。バーゼル委員会は、選択肢として用意しただけです。株式で自己資本規制を満たしてもいいのです。

リーマン・ショックに端を発するグローバル金融危機の時に問題になったのは、いざという時に返さなくていい仕組みのはずだった証券が、実際には負債のまま残ってしまうことです。たとえば優先出資証券などです。結局、金融機関の救済のために公的資金が投入され、債権者はみな救われてしまいました。

バーゼル委員会では、規制を見直す時に、まず基本となる普通株をしっかり定義しました。普通株さえ持っておけばOKという考えの人も中にはいましたが、破綻処理に入って初めて、返さなくていいとなる債券があると有用だというのが共通認識でした。

AT1債が生まれた理由

この2種類があればいいという話もあったのですが、さらに、金融機関がまだ生きているうちに使える財源があると有用だという話になりました。というのも、金融危機の時、経営不安が高まった金融機関が優先株で出資を受けると、信任が回復した例がいくつかあったからです。

優先株は、破綻した時には普通株より優先して残りの資産から支払われますが、負債ではなく資本ですから、もともと返さなくてもいいものです。優先株は、「生きている間に使える手段」として自己資本にカウントできることになりました。

優先株は日本やアメリカの法制度にはありますが、欧州の大陸諸国にはないそうです。この有利不利を解消するために、「債券として発行するけれど、いざという時に返さないことにできるもの」として設計したのがAT1債です。

AT1債は自己資本のうち中核となる資本の比率(主に普通株、CET1比率)が5.125%を下回った場合、または当局判断で必要と認められた場合、元本削減されるというのが国際合意です。株式に転換されるタイプのAT1債もあります。株式に転換されるタイプであれば順番は入れ替わりません。

当局としては、まだ銀行の中に負債を返せる資産があるうちに方向転換させたいのです。

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