生みの親に聞く「AT1債」はなぜ無価値になるのか クレディ・スイスでの無価値化は例外ではない

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――あくまで当局判断という曖昧さは、市場と相性が悪そうです。

そうですね。ただ、危機対応は、事前にルールで完全に明確にして機械的に行うことは不可能です。早期介入にしても破綻処理にしても、事前に選択肢を示して、どのような場合にどの選択肢を用いるのか明確にしておくことは大事です。頭の整理としても、透明性を高めるためにも。

でも実際の運用は、そのつどの判断にならざるをえません。想定しないことが起きうるからです。事後的に説明する必要はありますが、だからといって次もまた同じように対応するとは限りません。危機はまた違う形で現れるからです。

政府保証を使わずに済めばいい

――スイス政府は今回、UBSによる買収にあたって、クレディ・スイスの資産や流動性に政府保証をつけました。

政府保証が使われずに済めばいいなと思っています。公的資金を使わずにうまく対応できた成功例になれば、と。理想的には、政府保証をつけずにAT1債を元本削減してUBSが買収し、うまくいくのが一番よかったのですが。

日本で議論していると、「銀行危機になったら公的資金を使うしかない」という声があります。「公的資金を使わずに大きな銀行を破綻処理することは考えられない」という人もいるのですが、そのような傾向はあまりよくないと思います。

個人的には、公的資金は、1つの選択肢としてあっていいとは思います。絶対に公的資金を使ってはいけない、というのも逆方向に行きすぎていて、どうしても投入しなければ収まらないケースもあるでしょう。

でも、使わない選択肢を作りましょうというのが国際合意です。選択肢を作る努力をしてきたはずです。

――日本でも、メガバンクはAT1債を発行しています。

AT1債は優先株の制度がない国のために作ったものです。日本には優先株がありますから、そもそも邦銀はAT1債を発行する必要がないように思います。

発行するのであれば、投資家がリスクをきちんと判断できるように説明する必要があるでしょう。

黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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