生みの親に聞く「AT1債」はなぜ無価値になるのか クレディ・スイスでの無価値化は例外ではない

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――元本削減が当局判断というのは、ずいぶん曖昧に思えます。

破綻に向かっている時は資産が劣化していくスピードも速いですし、自己資本比率の値はせいぜい四半期に一度の頻度で、しかもリアルタイムではわかりません。

「中核となる自己資本(CET1)比率の基準が5.125%を下回った時」という数値基準はあるものの、実際には数値をもとにAT1債を「返さなくてもいい」となることはないでしょう。

スイスは独自のルールとして、5.125%の手前の7%を切った段階でAT1債を返さないことにできるようになっていました。今回、クレディ・スイスが7%を切りそうだという見込みをある程度はつけていた可能性はありますが、直接の理由は当局判断です。

投資家と発行者が納得しているのなら構わない

――スイス政府が、救済合併と同時に特別法を作ったことも疑念を招きました。

特別法は両行の株主総会を経ずに合併できるようにすることが主眼だったのではないでしょうか。AT1債に関する部分は安全策として、念には念を入れたのでしょう。

でも、当局が判断すれば返さなくていいことにできるのはAT1債のもともとの条件です。あらかじめ法律あるいは契約にそう明記するというのが国際合意でした。

契約自由の原則からは、買い手が「当局判断で返ってこない」という条件を納得して買うのなら、株式と債券の順番が逆になっても構わないはずです。順番が逆になるのが嫌であれば、株式転換型にすればよい。監督当局としては、投資家と発行者が納得しているのであれば、順番が逆転することを禁止する理由はありません。

これまで私はAT1債が元本削減となる条件について、CET1比率5.125%という数値基準は不要で、当局判断だけでいいのではないかと考えていました。実際に数値をもとに元本削減されることはないと考えたからです。

でも、今回のクレディ・スイスの件を受けて、考えを改めました。

数値で元本削減が決まることはないにしても、5.125%という数値は目安として有用なのです。0%を切れば債務超過で、アメリカなどでは2%を切ると破綻処理に入ります。それより手前でAT1債が元本削減されると示せますから。

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